マルコ先生ver | ナノ
#30 叶わない願い
気付けばあの日から、三ヶ月もの歳月が流れていた。
初めの頃は、毎日彼を思い出しては日に何度も涙を流していていたが、今は、直接彼を見ると少し涙腺が緩む程度まで治まった。
学校では、あからさまに避けている。
接触しそうになると急転換し、それでも無理な時は近くの教室に逃げ込む始末だ。
彼に会わない日曜日だけが唯一気が休まる時になっていた。
前までは、日曜日が大嫌いだったのに、だ。
時折、彼の授業中に視線がかち合う事がある。
私が視線を向けると、必ずと言っていい程重なる視線にかなり困惑気味になる。
私をずっと見ているのかと、錯覚してしましそうになるからだ。
私との接触を断ってから、彼は何か変わっただろうか。
少しは寂しいと、想ったりしてくれただろうか。
そんな事ばかり考えている私は、未だに、彼の事が好きだ。
時が経っても変わらぬこの想いに私はただ、耐えるしかなかった。
マルコside
#name#に大嫌いと言われた日から、もう随分と時が過ぎた。
彼女にはあからさまに避けられている。
気になって仕様がないオレは、唯一、彼女を気兼ねなく見れる授業中、ずっと彼女を見ていた。
たまに交わる視線に胸が締め付けられる。
オレしか見ていなかった彼女の視線。抱き締めた時の居心地の良さ。そして、重ねた唇の感触を思い出し、どうしてあの時心の内を明かさなかったのかと、自分で出した答えに後悔しない日はなかった。
納得した筈の結末。
だが、やはり理解だけではどうにもならない気持ちが、オレの中を支配していた。
放課後。当たり前の様に共に過ごした彼女が居ない事に、酷く戸惑う。
誕生日に貰ったカップを見る度、瞬時に蘇る彼女の笑顔。
引き出しを開ければ、幸せそうにオレの横で笑っている写真。
こんなに未練たらしくするくらいなら、どうして彼女を手放す様なまねをしたのか・・・
でももう遅い。彼女はオレの事など早く忘れたがっているだろう。
あの態度だ。次に、オレから近寄ったら、間違いなく殴られそうだ。
そんな放課後の憂鬱な時間に扉を叩く音が響いた。
否、まさかな・・・
彼女が来る訳がない。
たが、ほんの僅かな期待を込めて扉を開いた。
そこに写るのは、やはり彼女ではなくて、予想外の人物にオレとした事が少し動揺する。
「珍しいねい、お前が来るなんて。どうしたトラファルガー?」
「あぁ、最初で最後だと思うがな」
「・・・まあ、入れよい」
何しに来たかなんて、なんとなく想像は付く。
確かこいつは、#name#に好意を抱いてた筈だ。
「で?なんだい?」
さて、なんと言ってくるのやら・・・
「フフ・・・あぁ、そうだな。あんた、#name#に惚れてるだろう?」
いきなりそれかい・・・しかし、何故こいつにバレている?
「バカ言ってんじゃねぇよい」
「フン。まぁいい」
こいつ・・・餓鬼の癖してやけに落ち着いたその態度。腹立つよい。
「話しって、それだけかい?」
「あぁ。後、あんたが望んで手放したんだ。もう#name#には近づかないでくれ」
「っ・・・」
「あいつは、オレが幸せにしてやる」
この餓鬼。どこまでオレの心中を知ってやがる。
「頼んだぜ?マルコ先生」
「チッ、生意気な餓鬼だよい」
「そりゃどうも。あぁ、そう言えばあんた・・・」
それから嫌な笑みを浮かべながら帰った奴の最後の言葉に、オレは側にあった本棚を思いっ切り蹴飛ばした。
奴の言葉がぐるぐると頭を回りながら腸が煮え繰り反る思いが駆け巡る。
オレは盛大な舌打ちと共に再び本棚に八つ当たりをし、最後に吐き捨てて行った奴の言葉を思い出す。
「あんた…#name#を抱かなかったんだって?いい身体してるのにな、あいつ。」
「それに、イイ声で啼くんだぞ?フフ…寝起きの顔も最高だ」
奴の言葉にオレの心は、最高に苛付く自分と、自業自得だと、自嘲する自分が戦いを始めていた。
「#name#・・・」
オレは暫く呼んでいなかった彼女の名を声に出し、オレはお前の事が好きなんだと、伝えられない想いを噛み締め時間が戻ってくれないかと叶わない願いをたてていた。