マルコ先生ver
| ナノ
#26 私の失恋
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中々前へ進んでくれない足に、また立ち止まってしまう。
覚悟を決めた筈なのに、戸惑いが生まれてしまった。
でも、これは前から決めていた事だ。
彼に、彼女がいるなら・・・もう付き纏わない。
扉の前で、また止まってしまう。
ドアノブに手を掛けたまま動けずにいた。
もしかしたら、今日で最後かもしれない。
この通いなれた扉を見つめながら、涙が出そうになった。
泣いちゃいけない。
この扉を潜って、そしてもう一度、この扉を潜るまでは。
「マルコ先生」
いつも通りを装い、彼に呼び掛ける。
「おう。#name#珈琲淹れてくれよい」
「はい」
マルコ先生、知ってますか?
今から、あなたの答え次第で、私が淹れるこの珈琲が最後になるんですよ。
そんな悲しい思いを胸に、ほんとに最後になるかもしれない珈琲を、いつもより丁寧に淹れた。
それを彼の前に置き、いつもの様に隣に腰を下ろす。
いつもと違うのは、ピトリとくっ付いていない事くらいか。
さぁ、マルコ先生、始めますよ。
あなたにとっては、どうでもいい事かもしれない。
でも、私にとっては・・・
「昨日は、お休みでしたね。何してたんですか?」
「昨日?・・・ずっと家に居たよい」
……………………終わった。
そう。私の賭けの対象は、彼の返答。
昨日の事を、まさかの期待で、女友達の買い物に付き合っていたと返ってきたら、セーフ。
包み隠さず、彼女と買い物をしていた。もしくは・・・先程の様に嘘でごまかしたら、アウト。
そうだ。私は賭けに負けてしまった。
「そうですか・・・」
せっかくいい天気だったのに、勿体無いですよと、心の動揺を隠す様に言葉を繋ぐ。
「あぁ、そうだねい」
「っ・・・」
私の予定では、ここで帰るつもりだった。
つもりだったのに・・・
「#name#?どうした?」
「・・・・・・・・・」
言葉が出てこない。
それだけじゃない。体が僅かに震えて、思う様に動いてくれない。
「おい・・・」
私は俯いて、震えを抑える様にスカートの裾を強く握った。
「何か・・・あったのかい?」
そんな優しい声色で、心配したように話し掛けて来る彼に、
「マルコ先生。抱いてください」
自分で言った癖に、その言葉に酷く驚いた。何を言っているんだと。
でも、止まらない。
「は?どうした・・・んっ」
強引に彼の唇を奪い、抱き着いた。
思わず立ち上がった彼を、ソファーまで誘導し、力一杯押し倒す。
「たっ・・・何すんだい!#name#!!」
そんな彼を無視して、逃げない様に上に跨る。
自分でシャツのボタンを外し、ブラ共々脱ぎ捨てた。
「なっ!!おいっ!!」
自分でも何をしているか分からない。
ただ、体が勝手に動いたのだ。
これで最後になるのなら、嫌われても、愛想を付かされてもいいじゃないか。
「・・・」
私は何も発さず、彼の首筋にキスを落とし、シャツのボタンに手を掛ける。
「お、おい!!止めろよい!!」
その言葉と共に、上半身を起こした彼に手を取られた。
「#name#!!いい加減にしろよい!!」
「・・・っ」
怒鳴り声とも言える静止の言葉に、ビクリとする。
そんなに怒らなくても・・・いいじゃないか。
子供の悪戯でしょ?
私の裸を見ても何ともないんでしょ?
キスなんて減るもんじゃないって、言ってたじゃないですか。
だったら、抱いてくれたって減るもんじゃないじゃない。
何で・・・
「はぁ・・・いいから服。着ろよい」
そうやって私を乗せたまま、器用に服を拾い集め、着せてくれる彼。
「どうしたんだい?」
どうしたもこうしたもない。
この行動に、説明なんて出来ない。
ただ…何か心の蟠りが取れた様な、すっきりとした気持ちが生まれた。
ここまでしても、彼は動じない。
決定的じゃないか。
彼は、私を見ていない。きっと、これから先も可能性はゼロだろう。
「ごめんなさい・・・」
私は謝罪の言葉と共に、この一年以上続いた片思いに終止符を打つべく、彼に向き合う。
「マルコ先生。私、本気でした」
本気で大好きでした。と、溢れそうな涙を必死で堪え、彼に告げた。
「・・・#name#」
「本気だったのに・・・」
泣いちゃいけない。彼の前では泣かないと決めたじゃないか。
「#name#・・・何言って・・・」
そう言いながら、私に伸びてきた手を振り払う。
「っ・・・」
もう触らないでほしい。
そんな目で見ないでほしい。
私の事なんか、何とも思ってないくせに。
彼女がいるくせに。
嘘つきなくせに。
そして・・・どこまでも優しかったマルコ先生が、本当に大好きでした。
彼の上からゆっくりと降りた私は、彼に背を向けたまま、
「さよなら、マルコ先生」
何とか口にする事が出来た言葉を伝え、逃げ出す様に部屋を後にしたのだ。