マルコ先生ver
| ナノ
#20 七夕の願い
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《何て書く?》
《やっぱり素敵な彼氏が出来ます様にでしょ?》
《だよね!》
そんな乙女達の会話を耳の端で捉えながら、彩りどりの短冊が結ばれている笹を見上げた。
「七夕かぁ…」
去年は何て書いたかな…?去年…
書いた覚えがない。
そうだった。私はこう言う伝説じみたものにはあまり興味がない。
だいたい一年に一度しか逢えないのに、織姫と彦星だって、他人の願いなんて聞き入れる余裕がある訳がない。
もし仮に聞き入れてくれるとしても、別に欲しい物もなかったし、叶えたい夢も、織姫と彦星に頼む程でもない。
でも…今年は、この笹がやけに気になってしかたない。
「書いちゃおうかな…」
駅前広場に、大きな笹が三本。その傍らに《ご自由に》と書かれた短冊を手に取った。
よしと。
勿論書いた願いは彼の事。他人の力を借りたくもなる。
「これ…一つしか書いちゃダメなのかな…」
そう思いながらも、私は厚かましくまたペンを握ったのだった。
「マルコ先生!」
「あ?今日はやけにご機嫌じゃねぇか」
いつも彼に会っている時は、殆どがご機嫌なのだが、今日は願掛けをしたせいか、なんだか期待に胸が躍ってしまう。
そんな私の変化を、いち早く察知してくれるマルコ先生に頬が緩みながら、
「今日は何の日か知ってますか?」
「今日かい?あれだろい」
1898年、アメリカ合衆国がハワイを併合した日。
「・・・・数学教師なのによく歴史なんて知ってますね」
予想外の回答をする彼に、嫌味も言いたくなる。
「喧嘩売ってんのかい?」
「いいえ。他にあるでしょ?」
「分かってるよい。あれだろい」
筍の日。
「へぇ、そうなんですか・・・否、他に・・・」
「クク。じゃぁ、浴衣の日かねい?」
「・・・七夕の日は出てこないんですか?」
「なんだい?#name#は七夕に、思い入れでもあるのかい?」
思い入れ・・・って程でもないのだけれど、せっかく短冊に書いたのだ。
何かサプライズ的なものを期待してしまう。
「・・・お願い事しました」
「へぇ。叶いそうなのかい?」
またいつもの意地悪顔でそう聞いてくる彼に、
「マルコ先生次第です」
叶えてくださいと言わんばかりの目で訴えた。
「・・・ちなみに、なんて願ったんだい?」
あれ?もしかして食い付いた?
その言葉に、ピコ程の期待がマイクロまで昇格した。
「あ、あの!…」
否、一番初めに書いた願いは、ハードルが高すぎる。言うだけ無駄だろう。
に、二番目なら、ミラクルが起こるかもしれない。
「今日…ご飯食べに連れて行って下さぃ」
つい、最後の語尾が小さくなってしまう。
無理だと、言われると分かっていても…実際に聞くと大打撃だ。
「飯?今日かい?」
「は、はい。今日です」
顎を擦りながら、何やら考え込んでいるマルコ先生。
もしかして…もしかして?こんな期待させる行動をとっておきながら、ダメは無しですよ!マルコ先生!!
「少し遅くなってもいいかい?」
それなら連れて行ってやると言う彼の言葉に、私は嬉しさを隠す事なく彼に抱き付く。
「ドタキャンしたらダメですよ!?」
「しねぇよい・・・」
そうして彼の頬に唇を落とし、急いで家へと帰った。
私は浴衣を引っ張り出し、お風呂に入り髪をセットし、まさかのデートに抜かりなく用意を進める。
そうだ!カメラも持って行こう。
この間、彼が看病に来てくれた時に、見つかって没収されてしまった分を取り戻すために。
と言っても、ネガはあるから、没収されてもそこまで打撃はなかったんだけど。
そうこうしている間に、約束の時間が迫ってきた。
少し早めに部屋を出て、彼を待ちわびる。
しかし、織姫と彦星様!以外とやるじゃないかと、感謝をしつつ、来年もお願いしようと密かに思った処で、愛しの彼の到着だ。
「お、浴衣着てんのかい?」
似合ってるよいと、お世辞でも嬉しい言葉を掛けてくれる彼の隣に小走りで乗り込んだ。
「何処行きますか?」
マルコ先生と一緒なら、私何処へでもお供しますと付け加えれば、
「あぁ、飯食った後、花火でも見に行くかい?」
せっかく浴衣なんて着てるんだからと、さらに嬉しいサプライズに私は倒れそうになる。
「マルコ先生と・・・花火」
感激です!是非とも行きたいと、運転中の彼に抱き付く。
「わっ・・危ねぇよい」
離れろと押し返され、確かに危ないと素直に離れるが、押し返された時にハンドルから離れた手をすかさず掴み、指を絡める様に繋いだ。
「・・・手。」
そんな主語のない一言じゃ、分かりませんと繋いだ手に力を込める。
「事故っても知らないよい」
そう言いながらも、僅かに握り返してくれた手に胸が高鳴った。
この前に引き続き、とても美味しい料理をご馳走になり、花火が良く見える高台へ向かった。
到着するや否や、花火が上がり始める。
「わぁ・・・すごい穴場ですね!!」
私は持ってきたカメラを取りだし、自分も写るように彼の隣に立ち、シャッターを押した。
「…おい」
いきなりのフラッシュに、眉間に皺を寄せ睨まれるが、笑って誤魔化し、急いでカメラを仕舞った。
また没収されては敵わない。
それにしても…よくこんな場所を知っているなと、まさか、誰かと昔来た事があるのかもしれないなど、ネガティブな思考を巡らせていると、
「何難しい顔してるんだい?」
花火を見ろと、連れて来た甲斐がないだろと少し笑うマルコ先生。
「花火より、先生が気になります」
そう口にしながら腕に絡みつき、頭を預ける。
すぐに引き剥がされると思っていたが、無言の彼を見ると、どうやら構わないらしい。
そう言えば、看病してくれた時から、何か変わった様な気がする。
抱きついてもあまり怒らなくなったし、先程別れ際にした、頬への口付けも何も言わなかった。
嬉しい事なのだが、何だか胸の奥がもやもやとする。
私が触れる事に、やはり何も感じないのだろうか・・・
目を細めながら、花火を眺めている彼の腕を少し引っ張り、口付けた。
しっかりと彼を抱きしめ、少しでも私を意識してくれればいいのにと、唇から伝わる熱に、涙が出そうになる。
そんな私の肩を、やんわりと押し返し、
「#name#・・・そんな顔すんなよい」
そう口にした彼は、離れた唇を再び重ね、少し痛いくらいに抱きしめてくれた。
聞きたかった。
何故彼からキスをしてくるのか、何故抱きしめてくれるのか。
臆病な私は、何も聞けないまま、この不思議な関係を過ごしていくのだった。
結局、一番叶えて欲しい願いは聞いてもらえなかったが、二番目の願いは、おまけ付きで叶えてくれた、空高くに居る彼等に、ありがとうと感謝したのだ。
「今日・・・泊まって行き」
「バカ言うなよい。ほれ、着いたぞ」
「・・・まだ最後まで言ってないのに」
「今度な。」
「!!」
「ほら、早く降りろ」
「!!!!」
私の書いた一番の願い事は
マルコ先生の恋人になれます様に