マルコ先生ver<img src="//img.mobilerz.net/img/i/63879.gif" border=0 align=absmiddle /> | ナノ

#19 狡い大人



体調も完全に回復した私は、今日も愛しの彼に逢いに行く。

それにしても、看病をしてくれていた時の彼は、今までで一番優しかった。

はっきり言って、反則だ。

しかし、担任のビスタ先生が来るのならまだ分かるのだが、何故マルコ先生が来てくれたのか。

聞いてみたが、たまたまだと言う彼の顔がもう聞くなと言う雰囲気を醸し出していたので、それ以上聞けなかった。

私からすれば嬉し過ぎるサプライズなので、良しとしておこう。

彼の居る扉の前に着き、ふと思った。

この扉を開けるのも、もう一年経ったなと。

この部屋に通うのも後二年。二年後にはもう来る事はないだろう。

一気に寂しさに覆われるが、中に居るマルコ先生を見れば、きっと直ぐに忘れてしまう。


「マ、ルコ先生」

とびきりの笑顔で部屋に入った。彼を捉えた瞬間、やはり、先程の寂しさは消えていく。

「おう。いつも元気だねい」

「マルコ先生の前だけですよ」

そう本心を言えば、はいはい。と流される。

本当に、彼という人が分からない。

私が迫ると適当にあしらうくせに、絶妙なタイミングで優しくしてくれたり、気に掛けてくれたり。

これじゃぁ、いつまで経っても諦める覚悟が出来やしない。

大人は皆、こんなアンニュイな感じで相手をあしらうのか。

キッパリと切り捨ててもらった方が楽なのになと。

もっと、私が大人になれば彼の気持ちも分かる様になるのかな。

そんな悲観的な思考を巡らせていると、彼が不審な声色で話し掛けてきた。

「#name#はよく、そんな顔をするねい?」

言いたい事があるなら言えと、そんな優しい眼差しで言ってくる彼に、言える訳がない。

《優しくしないで》なんて。

途端に胸が苦しくなった。気を許せば涙さえ出そうだ。

彼に、恋をしてからずっとだ。自分で選んだ結果なのに彼を責めてしまいそうな自分に嫌気がさす。

「#name#?」

俯いていた私に、彼が心配そうに顔を覗き込んできた。

「うっ…マルコ先生ー」

泣きそうな顔を見られたくなくて、咄嗟に彼に抱き着く。

「…何かあったのかい?」

またあいつに何かされたのかと彼は言うが、

何もない。それにあるにしても、原因は100%マルコ先生だ。

「何もないです。マルコ先生を肌で感じたいんです」

「なんだい、それは」

溜め息をつきながら、紛らわしいと言う彼に、

意外と鈍くて良かったと安心する。

今日は感情的になってしまっていけないと、珈琲を淹れたらもう帰ろうと思った。

「お茶、淹れてきますね」

そう言って、回していた腕をほどこうとすると、背中に彼の逞しい腕が回り、

「もう肌で感じなくてもいいのかい?」

なんて、意地悪そうな顔で聞いてくる。

「……。」

やっぱり彼は狡い。
私をからかって何がそんなに楽しいのか…

未だ、ニヤリとした顔で私の様子を伺っている彼に、私はまた抱き着き首に顔を埋めた。

意地悪で、子ども扱いされて、私の気持ちを受け止めてくれない彼だけど、

「大好きです…」

そう。好きで好きで堪らない。

「……」

彼は何も言わず、背中を撫でるだけだ。

せめて何か言ってくれればいいものの…

どこまでも狡い彼の首筋に、チュッと吸い付き、赤い跡を付けてやった。

「なっ!?」

「ざまみろです。べぇ」

「おい!#name#!!」

そのまま彼に舌を出して、私は珈琲も淹れる事なく部屋を飛びだした。


あの声色は、怒ってたな。
だって、明らかに私が付けたあの跡は隠しようがない場所だ。

私をからかった罰だと、なんだか彼に勝った様な気さえしてきて、少し満足気に廊下を歩くのだった。









「げっ…#name#のやつ…目立つとこ付けやがって」



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