マルコ先生ver
| ナノ
#15 難題放棄
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マルコ先生の部屋を飛び出してから、少し寄り道をした。
うちの学校は海が近い。
歩いて十分もすれば綺麗な海岸が続いている。
砂浜の少し手前で腰を下ろし、沈みかけていく太陽と、どこまでも続いている地平線を見詰めてみる。
「はぁ…何やってんだろ、私」
思わず溜め息が出た。
マルコ先生は何を考えているのかな。
減るもんじゃないって、言っていた彼。
彼にとってのキスは、瞬きをする様にたいした意味もなく、何も感じない動作なのだろうか…
初めはそれでも良かった。
ただ、キスをしてくれたと言うだけで幸せだった。
叶う筈のない恋。
初めから諦めていたこの想いは、彼がキスをしてくれた事により変化してしまったのだ。
独占欲。私の心を支配したのはその言葉。
彼を独り占めしたい。もっと触れ合いたい。私以外の女を見ないで欲しい。
狡い大人に恋をした私は、この先の見えない恋愛に恐怖さえ感じてしまう。
恋のこの字を知ったばかりの私にはハードルが高すぎたのか…
「何で…キスしたんだろう」
ボソリと呟いた独り言に、思わぬ返事が返ってきた。
「教えてやろうか?」
その聞き覚えのある、出来れば聞きたくはない声色に自然と顔が険しくなる。
「知ったかぶりしないでよね」
あんたごときが知ってる訳ないじゃないと、声の主を睨み付けた。
「フッ…少なくとも、お前よりは分かるつもりだ」
「……。生意気」
確かに、恋愛初心者の私よりは彼の方が上手だろう。
「じゃぁ、教えてよ」
言ってみやがれ。この難しい難題の答えを。
「一度だけなら、気紛れ。二度目からは…」
好きな奴にしかしねぇ。
「…好きな…奴にしか?」
「あぁ。大半はそうだろ」
まぁ、探せばそうじゃない奴もいるだろうと、その言葉を聞いて私の心臓は煩いくらい騒ぎだした。
じゃぁ…じゃぁ、マルコ先生も?そうなの?したよね、三回も。
私が百面相を繰り広げていると、
「で?キスがどうしたんだ?」
あぁ、もう煩いな。
今考え中…な…き、聞いてみようかな…。
この変態なら、またミラクルで結果オーライにしてくれるかもしれない…
そんな淡い期待を胸に、少々オブラートに包んでマルコ先生との事を相談してみた。
「…キスなんかしたのか」
「え?そこ関係ないでしょ?」
で、どう思う?と彼に問いただす。
「…教えねぇ」
「はぁぁぁ!?」
教えないって事は、なんらかの答えを導きだしてるって事でしょ?
「吐け!それが嫌なら、相談した時間を返して!」
私は理不尽な要求をローにぶちまけた。
だって"教えねぇ"の意味が分からない。
「…煩せぇな。あぁ、そうだ」
お前に分かるようにヒントをやろうか?
なんて、回りくどい事をする変態に多少苛ついたが、答えが欲しい私は、
ヒント…くださいと、
頭を下げる事になる。
「目、瞑ってろ」
「?うん」
素直に彼の指示に従う私も私だが、
「んっ!?んー!!」
頭をガシリと固定され、激しいと言う言葉がピッタリのキスをしてくる彼。
かなり長い時間されていたと思う。
彼とのキスは二度目だか、一度目は触れただけ程度の事故的なものだ。
しかし、何で彼とキスをする事がヒントなのか…
彼のキスは、まるで恋人同士がするかの様に離れては口付け、舌を絡ませ、お互いの愛を確かめ合うかの様に続けられる。
この行為の意図を探っている私は、されるがままだ。
唇が離れた隙に、私は口を開いた。
「意味が分かんない…」
「フッ…じゃぁお前は、一生わかんねぇよ」
「なっ…んッ」
これのどこがヒントなのか…。私には、さっぱり分からない。
なおも続けられるこの行為に、ふと頭に浮かんだものがあった。
ん?つまり…
「んっ、ねぇ、つまりこう言う事?」
好きでもない相手とのキスでも、場に流されちゃうみたいな?と、彼に聞いてみた。
「ハズレだが…それも一理ある」
もう!回りくどいのよ!
後…、
「いつまですんのよ!!」
彼を思い切り突飛ばし、唇を拭った。
マルコ先生と変態とでは、全然感じ方が違う。
マルコ先生とのキスは、胸がキュンとなって、愛しくて堪らないのに対し、
変態とのキスは…
キュンともスンともならず、出来れば二度としたくはない。
だから何なのだ。
好きな人じゃなくても、濃厚なキスは出来ると言う事ではないのか?
「分かんないよ…」
「じゃぁ、もう一回させろ」
「嫌!絶対いや!」
「フッ。わかっただろ?」
「だから分かんないよ…」
やっぱり、お前は一生わかんねぇかもな。
それ以上、この話題について、彼は何も答えてくれなかった。
結局彼は、ただキスがしたかっただけではないのか…
答えを教えてもらえなかった私は、何だか騙された気分だ。
それから家に帰っても、答えは見付からず、考えても分からない難題に、私は放棄と言う結論をだしたのだ。
「マルコ先生っ!」
「…お前も懲りないねい」
「はい!今日も大好きです」
「はぁぁ……」