碧に溺れて 第1章 | ナノ
#04 彼の唇
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「………」
「……ぉぃ」
「……………」
「はぁ、さっきも言ったが、先にオレん家行って、その後車で送ってやった方が効率いいだろ」
「…だったら初めから車で迎えに来てもらえばいいじゃない」
「…かわいくない女だな…いいだろ、別に」
そうなのだ。トラファルガー君のお家は大きな病院を経営していて、いわばお坊っちゃま。電話一本で運転手がすっ飛んで来る筈だ。
なのに彼はそれをせず、私と相合傘で帰っている。
私からすればはた迷惑な話だ。
何故雨の中、ビショビショになりながら30分近くも家とは反対方向に歩かなくてはいけないのか…
「はぁ、もう歩くの疲れた」
「もう少しだ。ちゃっちゃと歩け」
全くこの俺様隈ヤローめ。何度目かの溜め息を吐いた処で、
「着いたぞ」
やっと到着だ。
しかしその高級感たっぷりな佇まいのマンションに、私は思わず息を呑んだ。
そんな私を不振な目で見ながらも、おいていくぞと言う彼の後を急いで付いていく。
直ぐに送ってくれると思ったらあがれと言われ、しぶしぶ彼の部屋に入った。
シンプルisベストと言わんばかりに必要最低限の物しか部屋にはなく、白と黒を基調にしたインテリアでコーディネートされた部屋は彼の性格を表している様に思う。
「おぃ、脱げ」
「…は?」
「靴下とか濡れてるだろ。部屋が汚れる」
あ、成る程。しかし…だったらあげなきゃいいのにと、私は心の中で悪態をつきながら靴下を脱いだ。
「なんなら制服も脱いでもいいぞ」
「なんで?!いいょ!」
「濡れてて気持ち悪いだろ、オレの服貸してやるよ」
「いいょ、すぐ帰るし」
「オレは医者の息子だ。着替えさせなくて風邪でもひかれたらオレのメンツがねぇ」
「え…、すごいこじつけだね」
どんな責任感だ。などと思いつつも、かなり濡れていた制服は気持ち悪く仕様がなく、彼のお言葉に甘える事にした。
シャワーも浴びてこい。
そんな事をさらりと言うトラファルガー君に怪訝な顔で断りをいれ、彼の大きめのパーカーをワンピースの様に着てみる。
制服を乾燥機にかけてくると部屋を出ていったトラファルガー君の後ろ姿を眺めながら明日も雨かな、などとぼんやり考えていた。
暫くして戻って来た彼の手には湯気のたったカップが二つ。
それを座っていたソファー前のテーブルに置き、ドカリと隣に座るトラファルガー君。
そしてコチラを下から上まで見た彼は、
「その格好、そそるな。誘ってんのか?」
目を少し細め、私を驚愕させる言葉を放ってきた。
「なっ!?だったら下も貸してよね」
「いいじゃねぇか。その方がオレは好きだ」
何なんだ、それは。
彼の事は友達として接してきたのでそんな発言をされ少しパニクる。
「ト、トラファルガー君…女には困ってないんでしょ?わ、私に欲情なんかしないでよねっ」
変な事を言い出した彼に、私も意味の分からない事を口走る。
「フフっ。確かに困ってはねぇが…お前だから欲情すんだよ」
「っ…!」
そんな彼の言葉に暫しフリーズしてしまう。
「それから、名前…。トラファルガーじゃなくてローって呼べ」
「ぇ…あ、ぅ、うん」
確かにトラファルガー何て呼びにくい。それは素直に頷いとこう。
が、しかしだ。さっきの言葉はどう言う意味なんだろうか?
悶々と無言で考えていた私の顎をいきなりクィっと持ち上げられたと同時に、唇に暖かい感触がした。
それが彼の、ローの唇だと気付くのに…私はまた、暫くフリーズしたのだった。