碧に溺れて 第1章 | ナノ


#22 彼女のベクトル




「今日は帰さないよい」

耳元でそう囁かれ、熱いキスに惚けていた私の返事も待たずにマルコ先輩に手を取られる。

暫く引かれるままに、はっと我にかえった。

「か…帰さないって…どう言う事ですか?」

既に場所はホテルのエレベーターの中だ

そんな私の問い掛けに

「そのままの意味だよい」

と、如何にも悪巧みしている顔で返された。


いやいや、無理です!と、どんなに抗議してみても、私を引っ張る大きな手は止まらない。


そんな、一人騒いでいると、一つの扉の前で足が止まる。

入れよいと、なかば押される様に中に入れば、恐らくスイートだろう…豪華な内装の部屋に息を飲んだ

「マルコ先輩!!」

私はめいいっぱい避難の目を向ける。

だが、そんな事は知らぬと言わんばかりに、彼は部屋の奥へ消えていった…

その隙に、部屋を出て行けばいいのだが、出た処でお金もなければ制服なども車の中だ…

ここはきちんと話し合おう。とソファーに腰掛ける。
そして、直ぐに戻ってきたマルコ先輩は

「風呂でも入って、一人でゆっくり考えろよい」

と、オレはバーで酒でも飲んで来るからよい。と言って出ていってしまった。


何なんだそれは…
本当にマルコ先輩の行動は理解不能だ。



だが、考えなくてはいけないのは確で―
お風呂か…うん、リラックスして考えるのもいいかもしれない。


バスルームは予想を遥かに越えて豪華だった

既に湯は張ってあり、あぁ…さっき此方にマルコ先輩が消えたのは、お湯を溜めに行ったのかなどと、思いながら、フラワーシャワーの施してある湯船に浸かった。




さて、湯船から出ている手を見つめながら考える。

いくらローが浮気をしたからといって、他の男に泣き縋り、キスまでし、あまつはホテルにまで入ってしまっている私…最低なのはどっちだ?
私はローを咎める資格は無いではないか…

ではどうする?お互い様だと許すのか…

ん?ちょっと待て、私は浮気をしたのか?
マルコ先輩が浮気でローが本気…

正直、私のベクトルはどちらに向いているのか?

そもそも、恋人とは私にとって何なんだろう…
恋をしている相手?何を求めてる?
一緒に居たい、触れ合いたい、自分の隠している部分を惜しみなく晒せる存在?

頭が爆発しそうだ…


じゃあこれだ。究極の選択。
マルコ先輩とロー、崖から落ちそうな二人の内、どちらか一人しか助けられない…

さぁ、どうする?


……選べない
ん?選べない? と言う事は、マルコ先輩は現恋人のローと同格という事なのか?


ローと居るのは楽しい。大事にされている感もたっぷり感じる。でも、触れ合いが無い分何か物足りなさを感じているのも確かだ。

ではマルコ先輩は…知的で大人の魅力があり、頼りがいもある。彼になら安心して身を任せられそうな気さえする。 

それに…さっきキスをした時、このまま時間が止まればいいとさえ思った程だ…


あれ?かなりマルコ先輩優勢ではないか……
どうやら私は押しに弱いらしい。引っ張って行ってくれる人が合ってるんだと思う。


そこまで考えて、はぁ、と深いため息が出た。
恋愛ってこんな頭を使うものだったのか?もっと本能的にするものじゃなかったかな…

未だ答えの出ない頭で、バスルームを後にした。

ソファーに座りながらも、悶々と考える。
そんな私の脳内戦争を停戦するかの如く、扉の閉まる音がした


「あぁ…その顔はまだ考え中だったかい?」


振り向けばそこにはマルコ先輩。ほんのり赤い頬で口角を少し上げながら隣に腰を降ろしてきた。


「で?考えはまとまったのかい?」


「……えっと、3分の…2.5くらいです」

「何だいそれは」

クツクツと肩を震わせながら此方を見る彼は、なんだかとても機嫌が良さそうだ。



そして、ふと気になる疑問をぶつけてみた。

男は皆、浮気するんですよね…?じゃぁ、浮気は受け入れるしか術はないんですか…?

と。するとマルコ先輩は、少し考える顔になり、

「あぁ…確かに、男は皆浮気をするって言うのは、蓋然的なものではあるが、あくまで推測であって、真理じゃないよい」 

ほら、天気予報で、明日は90%雨だと言ったのに、晴天だったって事もあるだろい。
と、統計に過ぎないのだと言ってきたのだ。

浮気する男の事で、いちいち悩むのは疲れるだろい。時間の無駄だよい。と。

「それに、体は浮気しても、心は浮気はしてないだろい」

そこが一番重要なんじゃないのかい?
と、よく意味が分からなかったが、そこだけは、あたしの心にやけに響いたのだ



そうやってどんどんあたしの中に入り込んでくるマルコ先輩を…あたしは止める事なんて…出来なかったのだ






「お、そうだ。着替えねぇだろい?これ穿けよい」


やっぱ色は白だろい。
と渡された、下着達に……私は悲鳴にも似た叫びをあげたのだった。





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