碧に溺れて 第1章 | ナノ
#20 私の歯車
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先程のマルコ先輩の発言に頭を悩ませていると、海沿いの高級感漂うホテルの駐車場に車が停まった
「…!? マルコ先輩…?ホテルに行くんですか!?」
何故ホテルに!? たしか景色の綺麗な所に行きたいと言ったのだが…
まさか、ホテルの最上階の部屋でオーシャンビューを見る気なのか…
そんなムーディーな演出はいらないんだけどな…
そんな、あたふたとしていた私に
「ククッ… 眺めの良い部屋でも…とってもいいんだけどねぃ…クッ」
可笑しくて仕方がない様子で話しながら
「ここのプライベートビーチに行こうと思ってねぃ」
何でも、ここからの夕陽が絶賛なんだと
私の心配は全くのご無用だったのだ
だが、一応フロントへは寄るらしい…
何やら話しているマルコ先輩を片隅に、そわそわとロビーで挙動不審な私を見て
「待たせたねぃ」
と若干苦笑いを浮かべながら、こっちだ。とロビーを抜けて眺めの良いテラスへと向かった
テラスへ出ると砂浜へと繋がる階段があり、フランスの町並みの様な佇まいの建物と白い砂浜に胸が躍った
「うわぁ!!凄く綺麗です」
お世辞ではなく、心の底から感じた思いを口にする
「お気に召して良かったよぃ」
何気無い話しをしながら、暫く砂浜を歩き、今が見物だと言わんばかりの夕陽を眺めながらベンチに腰を降ろした
「はぁ……なんだかこんな素敵な景色を見ていると、さっきまで泣いてたのがどうでもよくなってきました」
ホントにそう思った。
自然の力は素晴らしい
「ハハッ…それは何よりだよい、で?少しは落ち着いたかい?」
夕陽に心を捕らわれボーっとしていた私に、
彼との打開策は見つかったのかい?と、マルコ先輩に現実に引き戻された
「いえ…頭の中がまだぐちゃぐちゃで…」
それに考える暇なんてなかったじゃないですか
と答える
「そりゃそうだねぃ」
またも笑いを噛み殺しながら口にするマルコ先輩は、確信犯に違いない
「………。彼氏の事…好きかい?」
その問いかけに、マルコ先輩の方に視線を向けたが、彼は此方を向かない…
どこか寂しそうな眼差しを夕陽に向けたままだ
「………好き…………なはずだったんですが…今はよく…分かりません」
ホントに分からないのだ。好きだから、浮気現場なんか見て泣いていたんだろうけど…
今は…ローのロの字も頭に無い。マルコ先輩と居るからなのか…、一人になればまた涙がでてくるのか…
そんな思考を巡らせていると、突然腰に手が回され、抱き寄せられた。
「マ、マルコ先輩!?」
慌てて当たり前だ。
全くマルコ先輩は私に考える時間をくれる気はないらしい…
すると耳元で「#name#…」と囁かれたと思ったら
少し身体を離し、向き合う形になる
片方の手で頭を固定され、お互いの息がかかる距離まで顔が近づいてきた時…
「嫌なら…拒めよぃ…」
普段の自信に満ちながらも気怠そうな、かといって意地悪な目でもない
男の色気と、少し切なさを纏った様な眼差しで口にしたのだ
嫌と言えば止めてくれるだろう。そして、その後も何事も無かったように接してくれるはずだ
でも…その時の私は…
回されている腕が、少し…ほんと少しだけ震えている事に、堪らなく愛しさを感じて
ゆっくりと瞼を閉じたのだ