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木炭で描いた静止画

相談があるんス、と、いつになく真剣な顔で声をかけられた。だからその内容は少し拍子抜けというか、俺の経験が参考程度にはなるだろうけど参考以上の何かになる気が全くしなかった。


「漫画とかみると、主人公のむきあってる志望校調査の紙って半ぴらで空欄みっつと名前書くスペースだけじゃないスか。実際は紙でかいし志望校に学部に志望理由とか受験方法書けとか、聞いてないっスよ。あーもしかして俺主人公じゃないからこんなんなのかもって」
「そりゃ常識的に考えて志望校上三つだけ聞いてはいそうですかなんて言う学校もねぇだろ」
「そうっスよねぇ。あーあ、先輩、俺今絶賛悩み中なんです。進路」
「見てりゃわかる。まあまだ一年なんだから、あんま固く考えんなって、な?」

在り来たりな言葉ではあるがなんとか励ましてやろうとするけど、黄瀬は素直に受け取らない。
はてこいつはこんなに真面目だったかと、いやもしかして不安が大きすぎるのかもしれない。

「高校決める時は…まあ、想像通りって感じなんスよね。すごく受動的に海常に決めたんス。今ではそれが良かったと思えるけど」
「そうか」
「大学も同じように入れるなんて思ってたら大間違いだろうし。ていうかケガしちゃったし、だからバスケは望み薄かなって。好きだけど、それで食べていくってなるとちょっと違う気もする」
「しっかり考えてんじゃねーの」

そこまでの努力を褒めても苦笑いしかかえってこない。本当の本当に思いつめすぎなんじゃないかと、心配になる。

「…そういえばお前、将来の夢は?モデル?タレント?そっから逆算して学部探したりしても良いんじゃねえの?」
「あ、なるほど!…あ、あー」
「なんかダメなのか?親御さん反対?」
「ああ、いや、うーん…」

煮え切らない返事に少しイライラする。落ち着け俺、ここでびびらすのはどう考えても得策じゃない。
大きく息を吸って吐いて、なんとなく調子を整える。

「…モデルの仕事、楽しいけど将来の夢って言われると、それもまた違うんスよね。もっと別に夢ってあって、あ、でもお金を稼ぐ手段だったらやっぱりモデルが一番なんスかね」
「へえ。なんなの?お前の夢って」

初耳だから。そもそも俺達の間で将来の話をするのはこれが初めてだろう。
進路の話が持ち上がらないような時期はくそ生意気な後輩の指導で手いっぱいだったし、その後だったらそれこそバスケ漬けだった。
俺達って案外こんななんでもない話もできるんだな、と思うと、少し嬉しいような気もした。

「…俺ばっか言うの、恥ずかしいっス」
「何バカ言ってんだよ。お前の相談乗ってんだろ」
「そうっスけど…先輩は大学、どうしたんですっけ」
「東京のスポーツ科学部」
「へえ、なんか、先輩らしいっスね」
「らしいも何もねえだろ、こういうのに」

ほら、俺は話したぞ。お前も話せよ。そうやって促してやれば、歯ぎしりをしてなにか吹っ切れたように話しだした。

「俺の将来の夢って、別に職業とかじゃなくて、しかもなんかすっげー女々しいから…聞いても笑わないでくださいね。絶対っスよ?」
「人の夢聞いて笑うほど性格ひんまがってねえよ」
「……俺、好きな人と結婚して毎日幸せに暮らすのが夢なんス」

失礼な言い方だけど、寄ってきた子からテキトーに選んでとかじゃなくて、誠実に胸張ってお互い好きあえる人と結婚したいなって。

恥ずかしさをごまかすように、その後も黄瀬は黙らなかった。
そうか、そうだよな。
はあ、と、俺にはない未来を哀れむように息を吐いた。




黄瀬さん仙台弁しゃべってるけど…仙台弁しゃべってるけど両思いだよ…
140211




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