モチーフは君の死体 さむい。 ふるりとまつげを揺らして、眼蓋を持ち上げる。 ここは一体、どこだろうか。 立ち上がろうとした。足が動かなかった。おかしい。腕も動かない。 仄暗い部屋。光源がわからない。壁際。 くるりと、自由な目玉を動かして辺りを探る。 自分の右側にドアのようなものが見えて、限界まで眼球をひっぱる。筋肉が疲れる感覚がした。 ぎい。 鈍い音といっしょに、扉が開く。 薄い隙間から滑り込んできたのは、彼だった。 こつこつと靴を鳴らして、彼は傍に寄って来た。 そっと、僕の目の前に座り込み、彼は僕を見つめるのだ。 からだ、が、動かないんです 何かしりませんか 息のような声。声になり損ねたような息。 力の入らない唇をどうにかこうにか動かして呟いた。 「だって俺の、思いのままなんすもん」 は 「夢の中なんすよ」 ...ゆめ 「そう、怪我だってしないし空だって飛べるし隕石が落ちたって世界は終わらない。水の中でも息ができるし心臓が止まることもない。だから黒子っちだって俺のものになってくれる。俺の思いのまま、このまま」 おかしい、です 「おかしい?どこが、だってここは夢の中。幸せだね、黒子っち」 ......こわい 「どうして、夢の中なのに、怖がる必要がどこにあるんすか」 こわい、こわい、ここから出してください 頬に、黄瀬くんの長い指が触れる。冷たい。 僕の目から溢れた涙が指に塞き止められて、やがて肌と肌の間を流れ落ちていった。 にこにこ。黄瀬くん。どうしてそう笑っていられるんですか。こんなことして楽しいですか。夢の中ならなんでも出来るって、なら何で、僕は君に触れられない。 「ねえ、黒子っち。あんまり泣いてるとおめめ溶けちゃうっすよ」 笑った顔がぐっと近づく。 べろりと水音がしたような、冷や汗。 暗転。 「っは...は...」 見慣れた天井。LEDに変えたばかりの室内灯。消し忘れ。強すぎる光量が僕を暴く、毒。 お前は、僕の深層心理なのか、夢。 「うっうぇ、げえ」 夢でまで、黄瀬くんを汚すなんて、僕。 「おめめ溶けちゃう〜」が書きたくて... 131003 |