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呼吸をやめたモチーフ


まあたぶん、夢なんだろう。

目の前には少し大袈裟に口を開けてスパゲティの絡まるフォークを突っ込む先輩。
咀嚼をして嚥下。
繰り返した。

俺も先輩も黒いスーツを纏い黒いタイを締めていた。
喪に服す?(だったら何のため)
向かいの先輩には手を伸ばしても到底届かない(どころか俺が二人寝転んでもはみ出ない)ようなテーブル。
真白のクロス。
それを埋め尽くすように並んだ料理の数々。
無法地帯。
右手には赤紫の液体と大ぶりのワイングラス。
左手には空のフィンガーボウル。
ナイフとフォークは用意されていなかった。(俺は食べられない?)
壁には絵のない額縁が飾ってある。
座っているのは立派な造りの椅子。
ふと、もう一度視線を前に戻すと、あれだけあった料理はどこかへ消えていた。
先輩の、胃袋の中。
口の周りが少し汚れている。
拭ってあげたいなあ。
そんな、遠くへ届くような腕はないのだけれども。
あっという間に笠松先輩が命を食べ尽くしたこの夢の中なら、望みさえすれば叶うかもしれない。
悪食。
先輩の、そばに、寄り添っていたい、のに。
何かをするでもなく(できるでもなく)、オムライスを食べる先輩を眺めた。
チキンライスのなんとも言えないオレンジが口の中に消える。
奴は、笠松先輩に吸収されていくのだ。
ああ、羨ましい。
全て平らげてしまった先輩はテーブルクロスをずるりと引っ張り口元を拭った。
お行儀、悪いっスね。
ワイングラスの中身がとぷりと零れる。
それともそれは、ここでは正しい行為なんスかね。
現れたテーブルは何の装飾もない、滑らかに加工された木板だった。



「先輩」
「先輩、ねえ」
「聞こえないんスか、先輩」

「ああ、聞こえてるよ、黄瀬」
「生きている最中なんだ」
「邪魔はするなよな」


いきているさいちゅう。
俺の、夢の中で生きるという事は、そんなにも繊細な事なのだろうか。
俺が、話しかけては行けないほどに?

じゃあ、先輩。


「死んでくれた方が俺は、嬉しいかも、しれない」


そうしたら先輩、俺とおしゃべり、してくれる?
そうだ、どうせなら、俺の分のナイフとフォーク、用意してよ。


「わかった」


先輩はそう告げると、動きを止めた。
先輩は動きを止めた。





食べることは生きることー
130902




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