はじまりに うっうっと漏れる嗚咽が支配する部室に足音が混ざった。誰のだろう、たぶん、きっと彼のだ。 「こんなとこにいたのかよ。探したぞ、黄瀬」 「う、うぇぇ、笠松せんぱぁい」 「はっみっともねえ顔しやがって」 「だってぇ」 べそべそとがきみたいに泣く。涙が止まらなくて、そのことがまた涙を呼んで、無限ループ。 何がこんなに悲しいんだろう。卒業なんて今までなんでもなく過ぎていったことなのに。何もかもがこれで終わってしまう気がして胸がぎゅうっと締め付けられて、涙が出る。止まらない。 顔を上げればいつかみたいに先輩が手を差し伸べてくれて、俺はその手に縋るけど体が重くて立ち上がれなかった。 「せんぱい、そつぎょ、おめでとうございます」 「ありがとう。できれば笑って祝われたかったけどなぁ」 「むりです、だって、せんぱい、卒業しちゃやだぁ」 「おいおい、そりゃないって」 なんでそんなに、からから笑えるんですか?辛くないんすか? だってもう、一緒に部活できないし、帰り道にラーメン食いに行ったり、みんなでナンパしたり、楽しいことできなくなっちゃうんスよ。そんなの嫌っす。俺もっと先輩と一緒にバスケやったりバカやったりしたいっすもん。むしゃくしゃしたら肩パンだって飛び蹴りだって、なんだってしていいから行かないでよ! 「…っお前なぁ」 「…先輩、泣いてるんすか?」 「ばぁか、お前のせいだぞ。式ん時は平気だったのに。想われてんなぁって思ったら」 「うっ、うぇ、ひぐっぅふ」 「あーもう!泣くなっつってんだろ!」 自由な方の手で頭を叩かれるけどちっとも痛くなかった。 先輩、先輩、俺もっといっぱい言いたいことあるのに、全然言葉がでてこないんす。 叱ってくれてありがとうございますとか、一緒にバスケしてくれてありがとうございますとか、認めてくれてありがとうございますとか、俺のこと見てくれてありがとうございますとか、勝たせてあげられなくて、ごめんねとか、いっぱい伝えたいのに、なんで行っちゃうんすか。 「黄瀬、あー、臭いこと言うぞ?」 「…はい?」 「卒業は終わりじゃねえ。環境が変わるだけだ」 「でも、でもせんぱ、」 「そうだろ?」 「っうぅぅ」 「おい、なんでまだ泣くんだよ!」 「い゛っだい!」 「ほら、しゃんとしろ、黄瀬」 「〜っはい!」 さっきとは比べ物にならない力で思いっきり叩かれる。痛さで涙が引っ込んでしまった。それから掴んでいた手を引っ張り上げられると、驚く程あっさり立ち上がれた。 「先輩あのね、ありがとうございます」 「おう」 はじまりに春 130309 |