冬を追う 紅白の弾幕が外され、壇上を飾る大きな花瓶も、床いっぱいに並べられた椅子も跡形もなく片付けられた。湿った空気一つ残らないいつもの体育館。先程まで涙が漂っていたとは思えないほど、いつもどおり。 早川と中村はどちらともなく手を繋ぎ、見慣れているはずの空間で立ち尽くした。 「先輩達、行っちゃったな」 「行っちゃったなぁ」 「もう明日かあカンタンに会えないんだ」 「…寂しいな」 「なぁなかむあ」 「なあに?」 「…やっぱ、何でもない」 「言えよ。聞くから」 「…おえ、先輩達みたいに引っ張ってく自信無い。あんなふうに格好よくなえない」 「だろうな」 「でも、頑張る。頑張って勝つかあ。みんなで勝つかあ。勝とうな」 「ああ」 手に込める力が強くなる。 早川の声は少しも震えず、気丈に未来を目指していた。中村の応答は確かな支えになる。 あと一歩届かなかったこと。もうあの人たちと同じコートで試合をすることは叶わないけど、同じ海常という青を背負って。目を瞑って最後の試合の熱を、歓声を、光景を反芻する。今度は自分がもっと先まで、一番高いところまで海常を導いていくのだ。 「…あいねん同じクアスになえうといいな」 「文理で別れるから、無理だろうね」 「あ゛!!!」 「ばーか」 「で、でもおえ!!会いに行くぞ!なかむあに会いに行くかあ!!」 「…ふふっ、待ってる」 冬を追う春 130309 |