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思い出は羊水に沈めて

※年齢操作
※WC結果捏造




「雪だ」


雪だ。確かにその声の通り、窓の外は白かった。冬なんだから珍しくても雪くらい降るだろ。そう言う意味を込めてそれで?と返す。


「雪見ると思い出すんだよ、3年の時のWC」


窓の外を見たまま、森山は温くなっているはずのコーヒーに口づけた。その目は雪を見ているようで、そうでないような。
ああ、4年前の冬に雪は降らなかったのに、こいつは雪を見てあの日を思い出すのか。妙な感慨を覚えながら、雪の代わりに瞬きすら最低限の横顔を見つめた。


「勝ちたかったなぁ」
「そうだな」
「勝たせてやりたかったんだ」


もう吹っ切れたと思っていたのに、静かに悔しさが蘇った。勝たせてやりたかったなんて言われて、情けないぞ元主将。
思い返せば負けてばかりだった気になる。こんなことを言えば負かせてきた相手に申し訳ないけど、高校時代の思い出には敗北が付き纏った。2年のIHで負けて、練習試合で誠凛に負けて、3年のIHで桐皇に負けて、件のWCでまた誠凛に負けた。もちろん負けに至るまでに重ねた勝利がある。けれど一度として頂点には届かなかった。
情けなくて、悔しくて不甲斐なくて、涙はロッカールームまで我慢できなかった。声を上げることこそしなかったが、拭えども涙は止まらなくて、そのことが一層情けなくて。そういえばあの時森山は力が抜けそうな体を支えてくれていた。


「2年のIHの後に小堀と約束したんだ。絶対レギュラーんなってお前と一緒に試合出て、優勝するぞって」
「知らなかった」
「言わなかったもん。笠松ったらあれ以来どっか力入っててガッチガチで、言えなかった」
「そうか」
「もっと余所見しないでバスケのことだけ考えてバスケだけしてたら優勝できたかな」
「さあな。でもお前、俺はこれからの人生であの時ほど必死になれることはないと思う」
「ああ、奇遇だな。俺もだよ」


淹れなおしたコーヒーを渡して冷めた方と交換してやった。ありがと、と呟いて笑う。一口含む。
窓の向こうで雪は相変わらず降っていて、これは積もるんじゃないかと思った。森山も同じことを思ったようで、明日のバスダイヤを心配し始める。


「…雪ってさ、まあホントは大気の汚れとか、色々あって結構汚いんだって」
「らしいな。ガキの頃は舌出して食おうとしてたってのに」
「やんちゃだなぁ」
「皆そんなもんだろ」


俺はそんなことしなかったぞ、と念押しされる。どうだかな。
そんなことより何か言いたいことがあるんじゃないのかと促すと、笑うなよ?と笑って前置きされる。笑わねえよ、馬鹿。


「雪って綺麗だろ」
「見た目はな」
「あの時のお前の涙が雪みたいで、思い出すんだ」




溶けて羊水
残滓は末路
さらば、春





英雄様に提出
超個人的に公式前に覚悟を決めてその時が来たら笑ってお疲れ様を言おうぜ企画その1。
130125




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