あの子にきみにさよならを ノートの空白を埋めるハートの落書き。いつでも眺められるまっすぐな背中。 好きって気持ちを具現化できたら、それだけ楽な事はないのになあと思う。 でもそれってすっごく厄介だけど。 俺より一回りも二回りも大きい背中と俺の好き。 緑と橙と白と黒の色彩と俺の好き。 誰よりも愚直で誰よりも綺麗な姿勢と俺の好き。 緑間真太郎と俺の好き。 真ちゃんへの気持ちが目に見えて触れるようになったら俺は多分人前に出られない。恥ずかしいし、照れくさいし、申し訳ないし。 きっと形は少し歪で、溶かした鉄みたいな色をしてる。触るとゼリーみたいに柔らかいところと舌みたいにざらざらしたところがあるんだ。大きさは、そうだな、キリンの首みたいに高くて、昨日踏んづけてしまったありんこと同じくらい小さい。舐めてみると多分すっぱい。部活終わりの汗だくの味。舐めたことないけど。 想像上のハートを描き出す。きったないなあ。 ふと、真ちゃんのハートはどんなんだろうと思う。 きっとパソコンで計算して出したような形で、女の子のつやつやのくちびるの色。触ると細やかな刺繍に気づく。大きさは真ちゃんの手のひらで包めるくらい。味は無色透明の水の味。 あれ、そのハートって誰への好きの形なんだ? 思考は中断。校舎中に鳴り響くチャイムを合図にガタガタッと椅子が引かれる。 俺は音が鳴り終わらぬ内に俺のハートをこれでもかと塗りつぶした。 こんな気持ちいらないよ。じゃーな恋心。もうお前に会うことはないだろうよ。 ありがとう。さようなら。いつまでも友達のままで満足してくれよ、俺。 130630 |