その背中で愛してね ※モブ♀と小堀が付き合ってる 私は今日、結婚します。 高校生の時からずっと好きだった。優しくて気が利いて自分をおろそかにしてしまいがちな彼。熱心にバスケットをする彼が好きで好きでたまらなかったの。 「入るよ」 「どうぞ」 「…へぇ、綺麗だな」 「馬子にも衣装って顔してる」 「そんなこと思ってないさ。本当に、綺麗だよ」 「ふふ、ありがとう小堀くん、あっ」 「今日からお前も小堀だよ」 「そうね」 どちらからともなく笑いあう。どこにでもある、ありきたりで幸せな空気に包まれる控え室。私、うまく笑えてるかしら。 眼蓋を下ろすと放課後の体育館、あの風景がちらつく。だめ、だめよ思い出しては。目の周りを真っ黒にした醜い姿を見せるわけには行かないの。私は彼みたいな美しさを生まれ持っては来なかったんだから。 「今日、森山くんは来れるって?」 「ん…ああ、森山は、無理だって」 「そっか」 「…お前、アイツと仲良かったっけか」 「ううん。でも貴方が一番仲良かったのって、森山くんでしょ」 「あ、ああ」 ごめんね、いやらしい花嫁で。貴方にとって大事にしまっておきたい間なのかもしれないのに気になってしょうがないの。 高校二年生の春休み。密かに想いを寄せていた小堀くんがバスケ部のレギュラーに決まったことを聞いて、自習のついでに、そう言い訳して体育館へと向かった。 もう部活、終わっちゃったかしら。傾いた日差しを受けて私は急ぐ。バスケ部が活動をしている第二体育館の灯がともっているのを見て歩調を緩めた。よかった、まだいる。 息を整えた私は、見てしまったのだ。 転がったままのバスケットボール。膝を露出するズボン。汗でところどころ色の変わったシャツ。繋がれた手と手と、重なるくちびる。 小堀くんと、森山くんだった。 自分の目で見た事を受け入れたくなくて、走ってその場を離れた。涙が止まらなかった。 家に帰っても止まらない涙と、消えてくれない好きだという気持ち。 せめて彼に想いを告げて、葬ってあげよう。そう思えるようになったのは小堀くん達が部活を辞めた冬だった。私の告白はあっさりと受け入れられてしまった。素直に喜ぶことのできない自分が嫌だった。 「本当に今更だけど、幸せにできなかったらごめん」 「こんな時に言われても困るわ。それに、はじめから期待なんてしてない」 「え?」 「ううん。私こそ、本当に幸せにできなくてごめんね」 私は今日、結婚します。 超楽しい 130630 |