JuneBlind | ナノ






だから呼吸はへたくそなまま


 彼の象徴を手に鏡に向かう。鬱々とした視界の中で、寂れた鈍色が向こう側の自分を切り裂いた。

 「なあ」
 「お前」
 「緑間」
 「真太郎」

 何が彼の本当なのか、今になっても混乱する。確かに赤司は俺の目を見ていたはずだ。ならば俺が見ていたのは一体何だったのだろう。かつて恋心を注いだ相手が、得体の知れない何か恐ろしいものであった気さえする。ヒトを象る神だったに違いない。それにしては嫌に人間らしさもあったけれど、彼はきっとそう。
 ざくりざくり。想いごと断ち切られてしまえばいいのに。目の前を、線で描かれたような雨が降った。緑色の雨だった。いっそ潔いほどの補色なのだ。俺の体を巡る血液が赤かろうと、表には相反する色でしかない。憎らしい、ああ、憎らしいさ。蛇口を捻って丸く細く長い暗闇に、緑を流してしまおう。さようならだ。
 女々しい行為に反吐が出る。特別想いを込めて伸ばしたわけでもない髪を切った。きっと無様だろう。愉快だろう。今自分に出来る精一杯が惨めたらしいことこの上ない。
 切った髪が視界を邪魔することはないのに、前が見えなくなる。自分の内からじわりじわりとあふれた。

 「赤司」
 「赤司」
 「赤司」
 「赤司」

 俺は本当に、彼の何を見ていたのだ。
 涙が止まらない。愛していたのはなんだった。それすら朧げでわからないだなんて。俺に彼を沈潜する資格なぞ端からなかったに違いない。だから今涙が出る。いや、それよりも、彼の存在、回腸。理解できない。だけど俺達は寄り添っていた。
 洗面台に水を貯めて顔を沈めてみた。そこに答えがあるような気がしたのだ。狭くて生ぬるくて息苦しい。母の胎で揺られていた時、あの時もこんな気分だったのか。間違いなく同じ生き物なのだ、俺も彼も。皮を裂けば同じ形の臓器が鎮座しているはずなのに、どうしてこうも畏ろしい。

 儀式的な行為が何になる。髪を切っただけで忘れられるものか。身に余る赤い赤い恋慕の情。



「俺はまだお前が好きなのだよ」

 涙の溶ける水中。告白は泡と一緒にはじけて消えた。




永訣様に提出。
中学の三年かけて赤司を人間だと思えたけどやっぱあれ神様だわ、自分には重いわってなって失恋を決意し髪を切る詰襟緑間さん。
130609




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