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うつくしい子宮

 倫毘沙が俺の薄い腹を指先で撫でるたび、俺はぞっとして、ちいさく肩を揺らすのだ。



 丁寧に丁寧に、長くて白い指にほぐされる。体を暴かれる回数に比例してその時間はどんどん長くなっているような気がして、本当は行為に乗り気なことを知られたくないのに、いつも焦れてその先を促してしまっていた。


「も、いいから、それ…入るでしょ」
「うん、でももう少し」
「…っともひさ、ぁ」

 うわずったかすれ声を出せば一発だ。倫毘沙がきゅっと唇を結んで、理性が負けるのを悔しむように眉を寄せる。倫毘沙はそこでようやくスラックスを脱いで、グレーのぴったりした下着から自身を取り出した。片手で数回擦ってから、寂しさでぱくぱく収縮する穴にぐっ、と挿し入れる。どれだけ丹念にほぐされてもゼロになることはない圧迫感が、けれども、いつもいちばん気持ちいい気がした。

「んぅ」
「うん、痛い?カズ」
「へいき、奥、突いてほしい」

 この男の前でどんなやせ我慢をしても、到底彼の余裕にはかなわなくって、損をしたような気分になるのはもうずっと前からの事だった。そのことにはっきりと気が付いてからは、もう自分を精一杯取り繕って聖人君子になろうとするのも馬鹿げて思えた。甘えてしまえばいいのだ。俺のことを深く受け止めて包んで温めてくれるというのだから。溺れてしまってもいいのだ。そうして蕩けていくことの、取り返しのつかない怖さからは、できるなら目を逸らしてしまいたい。
 仰せのままにと言わんばかりに腰を進める倫毘沙が、ときおり苦しそうに息を詰めて、でもそっとくちびるで微笑みをつくる。このきれいな顔が、今だけは自分のものなのだ。シーツを握っていた手を持ち上げて倫毘沙の頬に触れると、倫毘沙は少し驚いたような顔をして、それでもすぐににっこりと俺に笑いかける。


「ね、気持ちいい?」
「ん、いい…いい、から…もっと、して?」

 俺の上に跨る倫毘沙の汗が、しずくになって落ちる。
 伸ばした腕をそのまま倫毘沙の首に絡めた。すると肩にのせられた両脚を抱えなおされて、激しく揺さぶられる。彼のために作り替えられた器官を何度も行ったり来たりされてしまえば、もう声を押さえることもかなわない。喉からするりと逃げていく嬌声を留めておくことができずに、俺はおんなのこみたいに喘いだ。


「あん、あ、やだ…!ともひさ、やぁ」
「ええ、本当?カズ、嘘つかないで」
「んっう、うそじゃなっ!ぁそこ、やだぁ、や、気持ちッよすぎてぇ変になるからぁ、あっ」

 訴える間にもぐちゃぐちゃに掻きまわされる。浅いところをしつこく責められ、かと思えばぐんっ、といきなり最奥を突かれ、挙句の果てに前も一緒に触られてしまえばもう我慢などできるはずもなく。一回目だというのにあまり勢いのない精液がぴゅくぴゅくこぼれていく。無性に恥ずかしくなって、そそくさと倫毘沙から身体を離してベッドに沈んだ。


「カズ、可愛い。大好きだよ」

 呟いた声がいやに甘くて、ささやかれるごとに怖くなる。俺を見下ろす倫毘沙の手がこちらに伸びて、そぅっと壊れものにさわるみたいに手のひらが俺の下腹部を一撫でした。俺とは違って固い手のひらの皮膚が、すっかり体温の上がっているおなかを滑る。
 それから、無理をさせてごめんね、と言う代わりみたいに額にキスを落とされて、また律動が始まる。イったばかりでとくべつ敏感な身体が、過ぎる快感を拾っては背筋を反らさせた。


「ひァ、あ、あ!ともひさ、やぁ、今、ァッ、はぁん、やだ、あ、やぁ」
「ん、もうちょっと」
「んんッ、う、ぷぁ、あ、とも!ぁん、ああッ」

 くちをふさがれて追い打ち。逃げ場のない感覚が身体中を巡って、目の前の男に支配されているような気になった。気持ちいい、どうしよう、気持ちいい。それでもやっぱり何か不安な気持ちが出て行かなくて、代わりにぽろ、と涙がこぼれる。


「はぁ、あ、やだぁ、きもちぃの、もぉ」
「ッカズ、出すよ」
「ぅ、だしてぇ…!俺のなか、ちょうだいっぁ」


 どくどくと倫毘沙の精液が注がれる。そこは俺の意思とは関係なく、一滴も残すまいと、いっそう倫毘沙を締め付けた。


「はぁ…カズ、いっぱい入ったね」
「ん…」
「もう疲れた?」
「少しだけ」
「そっか、じゃあちょっと休んでから続き、しよっか」
「ん、する…」

 挿れたままころんと倫毘沙が隣に転がってきた。横になって見つめあうのが照れくさくて、でもつながったままでは寝返りが打てずに、仕方がなく目を瞑ると、なんの合図と思ったのか倫毘沙のくちびるが俺のくちびるにふれてきた。ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立ててキスを重ねる。だんだんとふれる時間が長くなって、このまま深くなってはいけないと思ってそっと倫毘沙の胸板を押した。


「ね、カズ。このまま抜かなかったら、俺の赤ちゃんできるかな?」
「…は?」
「なんてね。でも、俺とカズの子ならきっと可愛いだろうね」

 ぞっとする。鏡がないからわからないけど、たぶん、今俺は色事の熱を感じさせないほど青ざめた真顔になっているのだろう。
 愛おしげに、今度は何度も何度もおなかを撫でる固い指先が、途端に俺の存在を阻む悪意のように感じられた。


「もうやだ」
「え?」
「もうやだ、もう触らないで」
「カズ?」

 ぎゅうぎゅう、萎えた倫毘沙のを締めながら、どの口が。でも俺はそっぽを向いて、思わずそう言っていた。もういやだ。俺を求めないで。俺にないものを求めないで。
 困ったように倫毘沙が笑う。あふれだして止まらなくなった涙でどんなに滲んでも倫毘沙は綺麗で腹が立った。その笑顔がどうしようもなく嫌。自分がとても良くないことをしているみたいで、その顔をされるたびに、心臓がずきんと悲鳴をあげるのだ。


「だってカズ、ここは命の源だよ」
「俺にはないよ、そんなの」

 産めない。
 新しい命なんて産めない。
 俺は、新しい命を産めない。
 コウノトリかキャベツ畑を信じてもらっていたほうがよっぽどマシだ。
 もっと、俺にもっと違う、俺にしか与えられないようなものを求めてほしかったのに。もっと俺そのものを肯定してほしかったのに。


「うん、知ってる」

 ずる、と俺の中から抜けて、極上の笑みを浮かべる男が、何を考えているのかわからない。何を考えているのかわからなくて怖い。ついさっきまでぐずぐずに甘やかされていたのに、むしろそのことさえも怖くなってくる。
 いやがって、逃げて、遠ざけて。本当にこの男でいいの、と何度も考えた。本当にこの男は俺を選んでいいの、と、その倍何度も考えた。


「それでも愛してるよ、カズ」


 だというのに、そうひとことささやかれるだけでぜんぶをゆだねてしまおうと思ってしまうのだ。


Bプロ怖い芸人始めてました。
懲りずに子宮ネタです…
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