涙は海になった はじめに言があった。 言は涙になった。 涙は海になった。 一面の海、海、海。四角い箱。 その中で俺は何よりも誰よりも、確かに異質でどうしたって海ではなかった。 黄瀬涼太は海ではなかった。 煌々、夕焼けに照らされても、体温など持てもしなかった。 潮のにおい。 たゆたって、沈んで、こぼれた汗が、溶けだした悔しさが辛酸を孕んだら、それは少し海だったかもしれない。 それはまだ俺の海だったかもしれない。 灼けるような砂粒。 追いかけて追いかけて追いかけた先に背中はなかった。見渡せばすっかり肥大化していた21グラムの些細な魂は遠のいて、ああ、俺の道はあちらではなかった、気づくのだ。 そうっと、なみなみと。足元を少し、浸していた海に俺が溶け出した。 日差しが刺さる。 それはもう、心の臓に、鋭く細い鉄の糸が巻きついては締め付け動きを鈍らせるのだ。 俺が愛しはじめた海をどうか汚すな。祈るより強く叫んだ。願うより早く鼓動を震わす。 勝利の音が聞こえた。世界がほんのひととき止まる。 俺は海だ。青くきらめく海だ。疑うものはいない。否定はさせない。ここにいるのだ、俺は。 息を吸って長く、長く吐き出す。 嵩を増してとくとくと四角い箱からあふれだした。 ゼラチン質の怪物。 こびりついた因縁は時を超え場所を変え、高揚と疲弊を連れてきては立ちはだかって楽しそうに笑うのだ。 覚悟は伝播する。苦い記憶をひとさじ混ぜても、もう自分だけのために走ることはない。もう一人だけで走ることはない。 置いていかないでとぶつけるわがままは、もう死んだっていいよう、そう聞こえたのかもしれない。 こんなところで死ぬなよと俺は生かされたのだ。 敗北が紡ぐのは違う海。愛した海がもうすぐ消える。泡になって昇ってだんだんと違う海になっていくのだ。 これは決して別離じゃないと、教えてくれたのは海だった。 涙は海になった。 このときをずうっと、待っていたのかもしれない。 涙の先へを見てきました。 もうポエムしか書けないのか私は… 161014 |