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蓋を開けたら恋心


「ビールでも買ってくれば良かったのに」

せっかくハタチになったんだからさ。


笑う小堀は昔から、きっちりしてそうで、でも世間様の規律さえ守っていれば案外ずぼらな男だった。

「ばぁか、浴衣の女の子に瓶ラムネだろ。夏祭りの風物詩」
「花火も入れてやれよ。女の子いない代わりにさ」
「これから捕まえるから、問題ない」

約束は中途半端に守る。守ってることには守ってるから俺は怒るに怒れない。今日だってそうだ。五分前行動は当たり前にするくせに、ジーンズTシャツで来やがった。俺はこの夏のトレンドを、帯から下駄まで取り入れて来たのに。浴衣デートするぞって言ってたのに。


てっぺんに巻かれたビニルを剥がしてピンクのプラスティックを押し込む。
ぎゅぎゅっ。
下から寄せる圧に怯んではいけない。力を弛めたら最後。俺のお洒落がきっと台無しになる。
手のひらに出来たまあるい凹みに労わりの視線をやる。お前の頑張りで俺は美味しくラムネが飲めるんだ。

「あれ、ビー玉は?」
「あるだろ。…下まで落ちたよ」
「普通、上の方の括れで留まるよな」
「普通じゃないんだよ、これ、括れがない。ガラス瓶じゃないんだ」
「本当だ」

買うときに、瓶ラムネ二つくださいって言ったんだ。でも屋台のおばさんが、ごめんなさいね、これプラスティックなのって。俺もうポカンとしちゃって、じゃあそれくださいって言っちゃったんだよ。

だから風物詩、やっぱりただのラムネにしといてくれないか。

ラムネをちびちび煽りながら経緯(いきさつ)を話した。別にそこまで興味はないかもしれないけど俺にとっちゃ大問題だったんだ。味はこうしてちっとも変わらないわけだけど。

今年のラムネはやっぱり軽いから。

「いいよ。俺は気にならないから、たぶんお似合いだろ」

小堀が何をさして、お似合いなんて言ったのかわからなかったから。もう一口、もう一口、蓋のできない飲み物だから、早いうちに収めてしまおうと少しずつ舌を弾かせる。


「飲まないのか」
「開けるの苦手なんだ」

なるほどお前は、この一杯に責任が取れなそうだ。

「俺が開けてやろう」


案外ずぼらな男の世話をするのは少しばかり執着心の強い粘着質な男って、相場は決まってるだろう。




超ラブラブ!!!(当社比)
140812




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