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特別じゃない女の子

彼の姿を一目見たとき、長い髪を左右に大きく揺らすさまが憎くて唇を噛んだ事を覚えている。


小さい頃、夏祭りのたった一夜に浴衣を着せてもらえることが大好きだった。
大切なお客様や親戚の前に出る際に着る重く窮屈な着物ではなく、鮮やかな色の軽い布が好きだった。
夏祭りの当日は手先の器用な姉に髪をまあるいお団子に結ってもらって。自分はどうかわからなかったけど、年の離れた双子と囃したてられた姉の後ろ姿が、ほっそりとした首筋がすごく綺麗で、自分もこういうふうに見られたら嬉しいと憧れた。


女の子、と称するのが後ろめたい気持ちすらあった。
速く速く、誰よりも先に頂上からの景色がみたくて。好きなことを誰よりも極めたい一心で、長い時間をかけてつくった身体を嫌いたくなんてなかった。
脂肪がないのは腕や脚に限ったことではない。
生理だって来なかった。
自転車を始めてから髪を伸ばしたことだってない。

項を辛うじて隠すことはするが結ぶには短い髪。あまりに女らしさを欠いた見てくれを心配して姉が買い与えてくれたカチューシャが自分に出来る精一杯のおしゃれ。
少しでも軽くすれば少しは速くなるのかと思ったのか、それとも単に邪魔だっただけなのか。今となっては髪を短くした動機なんて覚えていない。ただ残念なことに伸ばす理由も特に見当たらなかった。



「一目見たときは巻ちゃんのことが嫌いだったよ。だが今は逆だ」

気持ち悪い程独特のダンシングにそれを引き立てるように揺れる玉虫色の長い髪。憎かった。自分は強い。お前とは違うと言われているようで目を逸らしたかった。

「どうしたっショ、急に」
「なに、少し昔のことを思い出してね。巻ちゃんの男にしては長すぎる髪が大嫌いだったんだ。恵まれた体格も。これは巻ちゃんに限ったことではないが何より男子というのが羨ましい」
「俺はお前が女で良かったっショ。力の差で競り負けんのカッコつかねえし外で手ぇ繋げない」
「巻ちゃんはこと色恋においてはなかなか可愛いよなあ!」
「お前が可愛げなさすぎなだけっショ」

自分にないものをこの人が全部持っているんだと思っていた。一方的に目の敵にしていたのが今じゃどうだ、憎さ余って愛しさ百倍だ。

「時に巻ちゃん。恋人が出来たら是非聞きたいと思っていたことがあるんだが」
「ん?」

半端な長さの後ろ髪をかき分けて彼の一歩前に出る。新調したばかりの下駄が小気味いい音をたてた。



「私の首筋は綺麗だろうか」



至極真面目な問いに、まさか大笑いで答えられるとは思わなかったさ!




夏祭りデート
140505




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