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無神論者の神様

を洗う、というのは本当にそのままの意味だったのか。思いながら緑間は目を閉じた。
冷えた水の中で彼に触れられている箇所だけが妙に生ぬるい。気持ち良いとは思えなかったけれど。


足を洗うぞ。
あまりに唐突な赤司の言葉に緑間はされるがままだった。寛げる事を重視した広い浴室に連れて行かれると、赤司はおもむろに上着を脱ぐ。何を始める気だ。そう聞けばまた、足を洗うんだ。それだけ言われた。
上を脱いだ赤司とは違い、緑間は穿いていたジーンズの裾をまくられるだけだった。
水を張った洗面器に足を入れられる。赤司はそれはもう、恭しく頭を垂れた。

意味がわからない。


「キリスト・イエスは死ぬ前に、弟子たちの足を洗ったそうだよ」
「…だからどうした」
「足を洗うというのは最下級の奴隷の仕事なんだ。それをイエスがしたんだ」

それを、お前が真似することに何の意味がある。
緑間の口からその問いが空気に乗る事はなかった。その代わりに、頭の中ではたくさんの演算を。
もしかして、救世主を模して近いうちに命を投げ捨てる(誰のために)。
もしかして、悪魔に唆された俺が裏切る(だとしたら何を)。
もしかして、もしかしてもしかして。考えても考えても緑間に正解はわからなかった。神様気取りの思惑なんて。

「触れて癒すだけじゃない。言葉を授けるだけじゃない。愛の体現だよ」
「愛?」
「跪いて足を洗うことが、そうなんだ」

だから真太郎、お前も僕の足を洗ってはくれないか。
仕上げだ。そう言わんばかりに赤司のくちびるが凹凸のある親指の爪に触れた。




どの程度の人がわかる題材なんでしょう。
130729




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