なきごえだけがこだまする 「夏は海に行くぞ」 「俺はしゃいで、貝なんかで足を切るかもしれない」 「救急セットを持って行ってやるのだよ」 「十八番のテーピングだね」 「秋になったら紅葉でも見に行こう」 「拾った葉っぱで栞作ってあげる」 「せっかくだから使ってやろう」 「大切にしてね」 「冬はやはり、」 「真ちゃんにおしるこ買ってあげる」 「ああ、ありがとう」 「真ちゃんの指、寒いと真っ赤になっちゃうから」 「カイロ代わりのおしるこか」 「そうそう、あったかくっていいっしょ」 「そうだな」 「春になったらさ、一緒に桜見に行こうぜ」 「俺は夜桜が好きだ」 「なら一日中花見してよう」 「退屈だろう」 「退屈なんかじゃないよ。真ちゃんと一緒にいられるんならなんだっていい」 「奇遇だな、俺もだ」 「ほんと、お前と生きられるならなんだっていいんだ。海に行けなくてもいい、紅葉なんて見れなくてもい。おしるこ買ってやれないのはやだけど、代わりに俺があっためてやるからさ、なあ、緑間」 「ったかお」 「春まで、生きれなくてごめん、約束、一個も守れなくてごめんなぁ」 窓の外では真白の雪が降っていた。 陽がさす頃には病室にも俺の隣にも、どこにも高尾はいないのだ。 できない約束をする緑間と高尾 130329 |