紳士面でわたしを愛すのでしょう しょき、しょきしょきん 小気味いい音が部屋に響く。発信源は赤司くんの手の中だ。 「何をしているんですか?」 「ああ、テツヤ。何、切り絵を少しね」 「…切り絵、ですか。またどうして急に」 「どうしてと言われても、ここにハサミと紙があったんだ。どうせ切るなら意味をもって切ったほうがいいだろうと思ってね」 放置という選択肢はなかったんですか。 ハサミと彼の組み合わせは、否応なく高校の冬を思い出させられる。こんなにも危うい掛け合わせはないと言い切れるほどの悪夢だ。今思い出しても背筋がヒヤヒヤしてしまう。 「随分凝っているんですね」 「小回りが利くハサミのようだ」 「(いや、年季でしょう。)そうですか、赤司くんは器用ですね」 「普通だよ。それに、切り絵は中学の美術でやったろ?」 「そうでしたっけ」 「ああ、あの時はカッターナイフを使ったんだったか」 しょきしょき、しょきんしょきん 「机、紙屑だらけですね」 「一通り終わったらきちんと片すさ」 「お願いしますね」 しょき、しょき、しょき 「テツヤ、花の図鑑を持ってきてくれないか」 「はい」 しょきしょきん 「ふむ…まあこんなものか」 しょきん、 赤司くんはハサミを置いてくしゃくしゃの紙を広げた。なんとなく花という事はわかるが何という名前の花なのかまではわからない。ぱらぱらと図鑑をめくり、お目当てのページを開き彼は僕に指をさして見せた。 「チョコレートコスモス」 「…ああ、言われてみれば。そうですね」 「花言葉はわかるかい?」 「…希望、とか?」 初めて名前を聞いた花の花言葉がわかってたまるか。ありがちな単語を述べればくすくすと笑われた。 「テツヤ、これは君にあげよう」 「ありがとうございます…花言葉は?」 「恋の思い出」 もう一度ハサミを手にして、いけしゃあしゃあと彼は言い放った。 いつのことかは考えるまでもない。さーっと血の気が引いた。 この人、キチガイだ。 「っはは、冗談だよ。お前には僕の移り変わらぬ気持ちを差し出そう」 「…ありがとうございます」 楽しんでる 130212 |