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君に息付く終末時計


※黄瀬が人食い鬼




生きるために必要なことなのに、倫理だなんだって、満たされることを知らない腹を撫でる。
「ねえ先輩、食べさせて」
おなかすいたなあ。

だいたいはじめの内はもっと可愛くおねだりしてたんだ。でも止めた。そんな事したって髪の毛の一本もくれなかったから。労力の無駄。体力だって無駄。ただでさえお腹減ってるのに。

「ねえ先輩、食べさせてくださいよぉ」

俺の求愛なんて見向きもしない、先輩。牛とか豚とか鳥とか、羊とか犬とか猫とか、いろいろ試してみたんスよ。でもやっぱりお腹いっぱいになる前に気持ち悪くなって吐いちゃうんス。うげえ、げえ。ああ、うまいもん食べたい。そうして胃袋も心も満たしたい。

「ねえ、せんぱあい」
「うるさいぞ」
「だって、おなかすいた」

指の一本でいい。付け根までだけでいい。食べさせて欲しい。でも本音を言えば耳から食べたい。軟骨のちょっと固くて耳朶のぷにぷにしたところ。俺の声が聞こえなくなったら困るから、左の方の耳だけ。そのあとに尺骨茎状突起。そのまま手首をとって先輩がよく見えるように指を食む。足の指も舐めたい。首は最後までとっておこう。
うわ、よだれ出てきた。後ろから抱きしめてる先輩の首筋に垂れてしまう。うわあ、うわあ、おいしそう、違う、どつかれる!

「黄瀬ぇ」
「ひぃいすみませんっス!」

どさり、謝りながら、でも押し倒してしまう。ああ、我慢できない、先輩先輩、美味しそう。

「黄瀬、待て」
「やあだあ」
「待てって、聞けよ」
「うぅ」

いじわるだ、俺はもう今すぐにでも先輩を腹に収めてしまいたいのに。

「俺はお前を見ることができないし話もできないんだぞ」
「え?」
「手は繋げないし抱きしめもできないけど、それでもいいなら食え。お前ならいい」
「う…う、うわああ、うわああん」

なんでそんないじわる言うんですか。あんた俺に死ねって言うんですか、笠松先輩にさわれもしないなら生きてる意味なんてどこにあるんです。
わあわあ泣き喚く俺の頭を先輩が上体を起こさないままなでてくれる。ほら、これだ、これがないなんてやってらんない。ああ、でも、美味しそう!




賢い笠松先輩。食べる人は好きだけど最早人でなくなってしまった。
黄笠ちゃんの日おめでとう!
130704




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