無題の春 「花冷えなのに咲いてないなんて詐欺だよな」 ぷちりぷちりと足元の芝をむしる。ばっちいからやめなさいって小堀は言うけど、他にやることもないだろ。桜も散って上には枝と緑しかないんだ。それなら下の緑をむしるくらい。なぁ。 花見だっていうからせっかく、重箱におにぎりだとか卵焼きだとか、ウインナー、詰めてきたんだ。小堀と一緒に台所に立って、普段は任せきりな料理だってしたのに。花が咲いてないんじゃ気が滅入る。 手が汚れて食べられないと主張するみたいにあーっと口を開けると小堀が卵焼きを口まで運んでくれた。手が汚れていても箸くらい使えるのに。やーい、ばーか。そんなところが大好きだけど。 「退屈だ」 「そうか?」 「そうだ。なんでお前、そんなに楽しそうなんだよ」 「…なんでだろうなぁ」 にこにこしてる小堀にむしったばかりの細い草を投げた。やめろよって小堀は笑う。でも投げた草は小堀のところまで届かずにひらひら落ちた。 びゅうっと風がふく。小堀は気持ちいいなーとか言うけど、どこがだ。風は冷たい、体の熱までさらわれる。 「天国みたいだ」 「天国見たことあんのかよ」 「…お前と一緒なら、案外どこだって天国かもな」 「…馬鹿じゃないのか」 「馬鹿かもしれないな」 花見だっていうのに、桜が咲いていないのがいけないんだ。 テンションだだ下がり由孝は小堀んに首ったけ。(タイトル) 130510 |