魚が食べた笑顔 いつもいつも中村はむっと怒ったような顔をしていた。笑わないわけじゃないし、でも眉間のしわは取れなかった。それが俺たちに心を許していない現れみたいで嫌だった。中村が何を考えているのかとか、難しい事はちっともわからないけどむかついた。 「早川は中村の事嫌いなの?」 「こぼい先輩!…別に、そういうんじゃないっす」 「そっか、俺の思い違いで良かった」 「…こぼい先輩、は、なかむあ、変な奴だと思いませんか」 「ん?俺は別に、そう思ったことはないけど」 「…」 「まあ、いろいろあるんだと思うよ」 飼い犬にそうするみたいに小堀先輩は俺の頭を撫でていった。 部活に行こうと廊下を走っていると、がたがたがたっと大きな音がした。 何事かと思って足を止める。発信源の教室を覗くと乱れた机とうずくまる人影が見えた。 「…なかむあ!!」 「…だれ」 「なかむあ!大丈夫か!」 「ああ、早川か。平気だよ、眼鏡探してるだけ」 かけ寄ると中村はフラフラしながら立ち上がってまだよろけた。中村は踏み出した左足で、探していたという眼鏡を割ってしまった。ばきっと音がした。 「…はぁ」 「な、なかむあ!うあ、だいじょぶか?!」 「まあ、たぶん」 「ひっ」 「え?」 手探りで眼鏡の残骸を拾った中村が顔をあげて、ものすごく怖い顔をして俺を睨んだ。引きつった声がでた。 「なかむあ、顔、怖い」 「え、あ…ごめん、目細めるとちょっとマシなんだ」 「…眼鏡、大丈夫か?」 「うん、もともとそろそろ買い換えるつもりだったし」 「そっか」 中村に、バスケをしてるんだし、コンタクトにしてみたらどうかと聞いた。中村はコンタクトをするのは怖いと言った。 中村は怖くも変でもなんでもなかった。 たくさん仲良くなる前の二人 130428 |