首引き恋慕 立ち止まり、あっと声をあげた笠松の、指さす空を見れば鯉が飛んでいた。 「鯉のぼりか」 「早くないか?まだ四月だぞ」 確かに子供の日まではまだ一ヶ月もある。だけど七夕だってなんだってそれぐらいから準備を始めるし。楽しい事は引き伸ばしたい性分なんだろう。 「餓鬼の頃、子供の日が近くなると近所の集会所におはじきとかお手玉とか置いてたなぁ」 「へぇ」 「竹とんぼとかだるま落としとか、竹馬もあった。懐かしいなぁ」 「笠松、竹とんぼ飛ばすの上手だったろ」 「なんでわかったよ」 「なんとなく」 少年時代を思い出してはぁと息を吐く笠松を急かす気にはなれず、俺も立ち止まり一緒になって鯉を見た。 鯉のぼりって羨ましいのかそうでないのか、わからないよな。空は泳げても自由にどっかいけるわけじゃないんだぜ。そう言うと「お前は自由にどっか行きたいのか」と笠松が呟きを返した。別に、お前の隣にいれればいいよ。手を握って答える。いつか離れなきゃいけないなんて、拷問だよな。 「紐、外してやりてえなあ」 「やめろよ、怒られる」 「わかってるよ」 ああそうだ、やめとけよ。どうせ最後にはよろよろのぐしゃぐしゃになって飛べなくなるんだから。 俺の頭には河原で泥にまみれた鯉のぼりが浮かぶ。水中に戻りたくても、一人で動くこともままならないんだ。それよりなにより一人きりの旅は辛いだろう。生きるのだって愛し合うのだって死ぬのだって、二人いなきゃだめだろう。涙ぐんだ。それから一つ、遊びを思い出す。 「首引きだ」 「森山?泣いてんのか?」 「首引きっていう遊びがあるんだ。昔の遊びで、子供の頃にやらなかったか?」 「やらなかったよ」 「じゃあやろう、帰って、すぐに」 「別にいいけど、俺はルール知らないからな」 「簡単さ。向かい合って首に紐を通して引っ張るだけ」 「楽しいのかよ、それ」 「楽しい楽しくないじゃないんだ」 今はそれより、お前が傍にいる感触が欲しい。 タイトルの語感が好きなのですが本当は四十八手の体位です(爆) 130405 |