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この春は誰かの涙でできてるらしい

「お前雨好きじゃないだろ」

雨粒が窓を叩く音がしだして、笠松先輩は俺に背を向けて外を見た。寝返った分空いてしまった隙間を詰めるように俺も転がって、後ろから先輩を抱きしめる。背中のあたたかさが直接胸に伝わったのが心地よくて好きだった。

「どうして?」

そりゃあまあ、傘のせいで手はふさがるし服は濡れるし、好ましいかと訊かれれば好ましくないとは答えるけど。こういうジョウチョ的なところは悪くないと思う。何よりいくら先輩でも決めつけたような言い方に反抗心が湧いた。

「ミミズが死ぬだろ」
「…うぇ」

反射的にあの嫌なフォルムを思い出して吐き気がした。
そうだ、雨が降って止むと、一体どこに隠れていたんだというほどのミミズが息絶える。雨上がりになんの気なしに外に出ると、たった数歩で家に引き返したくなる。どうしてあんなふうに野垂れ死ぬのだろうか。湿ったところが好きにしろ、限度ってものがあるだろう。嫌悪。嫌悪についで侮蔑の念。

「まあそれは、どうでもいいんだけどさ」

雨はまだまだ窓を叩き続けた。




やはり意味もなく雨が好きです。
130403




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