トルマリンブルーの浴槽に沈めた残像 殺されてしまう夢を見た。 殺されてしまう事はなかったし、そもそも夢だけど、俺は引き倒されて、首に手をかけられた。痛みはもちろん感じない。だって夢だから。 それでも心の蔵がズキリと痛んだのはそんな表情で見つめられるから。 (せんぱい、せんぱいいたいよ) (き、せ) わからないけど、どうせ殺してもらえるんならそんな顔、しないでほしいなあ。 そっと片手で先輩の頬を撫でる。込められた力はちっとも緩まない。もう片方の手も伸ばして、頬を挟んで、下って、動脈に触れる。不思議とあたたかいような、そうでもないような。夢だし。 力を込めてぐるりと反転。先輩は驚いたように瞬きをして俺の首にかけていた手を外した。 (せんぱい、せんぱいだいじょうぶだよ) (きせ) (せんぱい、せんぱい) (きせ) ぐっと力を込める。ごぼり、気泡が上がる。ああ、水の中だったんだ、ここ。息できるけど、水の中だっていうのならしょうがない。 夢なのに苦しそうに顔をしかめる先輩を俺は笑顔で見送る。一瞬だけふっと楽そうな顔をして、だから俺はそれですごく満足だ。 先輩の体の下に手を入れて、抱きかかえようとした。そしたら先輩は体ごと泡になった。人魚姫みたいっスね。もちろん鱗も鰭もなかったけれど。 そういえば先輩は、人魚姫のような閉塞感を感じることはあるのだろうか。 上へ上へと光の方へ向かう泡を全て見送ってから、手持ち無沙汰になった両の手で自分の首に触れる。すぅっと息を吸って(水の中のくせに息が吸えるのはもしかしたら俺も人魚姫だったからかもしれない)、きゅっと、皮を肉を骨を血液を鷲掴む。 終わりが来るまで何度も繰り返そう。痛みはない。強いていうなら俺も泡になれないことが苦しい。 ああ、やっぱり最初に殺してもらっておけば良かった。 ああ、でもそうすると先輩、どうやって殺されるんだろう。 特に意味はない。 黄瀬の首を締めるのが笠松さんなら黄瀬は笑って締めかえして、先に笠松さんが息絶えて看取ってから自分の首を締める。死ねない。 130401 |