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ワイングラスのなかみ

これこれの続き的な




「なんか、変な気分だ」


俺と目線を揃えた森山先輩が呟く。俺はもっと、色んな意味で変な気分っスよ。


“ハイヒール男子”が巷ではじわじわ流行っているらしい。常に最先端を行くがコンセプトの雑誌でハイヒール男子企画を持ちかけられたときは性癖がバレたのかとヒヤヒヤした。
今日はその撮影だったのだが、一般的な男性と遜色ないサイズの自分の脚が華奢なヒールの靴にすっぽりと収まるのはなんとも倒錯的だった。そして同時に、森山先輩に履いてみてほしいと思った。同じ男とはいえ俺より細いし、スラリとしてるから絶対に似合う。っていうか単純に俺が見てみたい。
借りていってもいいかと担当にきくと、折るなよとだけ釘を刺されあっさり許可された。


「家ん中で靴履いてんのも、お前と楽に目があうのも、変な気分」


光沢のある青のピンヒール。下手な装飾がなくて滑らかな足の甲と血管がよく見える。
なれないヒールに先輩はふらつき、履くとすぐに椅子に座った。脚を組むものだから余計に脚線美が強調される。


「どう?似合ってる?」
「や…想像以上にいいっス…」
「キャー、涼太くんヘンタイ」
「…先輩も大概っすよ」


不意の名前呼びに思わず口元を抑えた。からかわれただけとは言え嬉しいし、ときめくし。


「んーなんかやっぱ妙な気分だ。高揚感もちょっと」
「楽しいっスか?」
「わかんね。黄瀬は?」
「はい?」
「楽しい?」
「…それはもう」
「ふーん」


コツコツとフローリングを鳴らす。ああ、床に傷つけないでくださいよね、賃貸なのはアンタも知ってるでしょ。
先輩は高揚感と言いつつも振るわない顔でずっと足元を見ている。嫌がっているわけではないのだろうけど。


「黄瀬、踏まれたい?」
「え゛」
「あれ、てっきり」
「え、いや、いやいや、あ、う」
「ボンデージとかはヤだけど、この程度なら平気かも」
「う、うわぁ、あ、うわあ」
「嫌だった?」
「滅相もございません」


思わぬご褒美、というか、ああ、と顔を覆って天を仰ぐ。ヒール男子特集ありがとう、神様ありがとう。信じてないけど。
言われた言葉を一言ずつ噛み締めて、反芻して、チラリと青を伺って、ああ、ああ、もう。


「キスだけ、させてくださいっス」
「どうぞ」


にやりと上がる口角を見上げる。背筋がぞくぞくっとして、僅かに震える手のひらでくるぶしのあたりと土踏まずのあたりを持ち上げる。
ああ、もう、隷属でもなんでも構わないから!




私 の 趣 味 で す 。
130317




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