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フラれた森山が飲んで吐いて泣くだけ

※大学生
※森山が飲みすぎて吐いてる
※笠松先輩がわんこを飼っている
※ただし黄瀬ではない






『いつもの居酒屋で待ってる』


こんなメールが森山から来る日は、何の因果かろくなことがなかった。レポート制作のために割り当てられたグループの男女比率がおかしいわ教授の荷物持ちに付き合わされるわ、今日なんか3回も女子とぶつかった。心臓が飛び出ると思った。

月に一度、酷い時には二週間に一度必ず来るメールに返信はせずに、嫌々ながらも指定の場所へ足を運んだ。



◇◆◇◆



「…笠松だー」
「(出来上がってる…)いつから飲んでんだよ、お前」
「んー、まだぜぇんぜん!」


行きつけの居酒屋の個室に通されればすでにだいぶ酔っている森山に絡まれた。もう3年も前になるが、相変わらずスポーツをしていたとは思えない程に体を大切にしない飲み方をする奴だ。呆れて溜め息が出た。
席についてメニューを見ながら、もう今年何度目になるかわからない質問をする。今度はなんでフラれたんだ?


「知るかよぉ、フラれた理由なんて。今度こそ運命だと思ったんだ」
「フラれる前にお前がなんかしたんだろ、相手の嫌がることとか、前の女と比べるようなこととか」
「……くさかった」
「あ?」
「くさかったなぁ、香水」
「それで?なんか言ったのか?」
「んっ香水くさいね、まえの彼女がしてたの、おれ、好きだったなー、かんきつ系のーって言った」


ああ、そりゃあフラれるわ。恋愛経験ほぼゼロの俺でも断言できる。森山、お前が悪い。ぐんぐん酒を流し込む森山に眉間の皺を深めて、相手に同情した。

高校時代は単純に薄ら寒いことしか言わない女好きだからモテないとばかり思っていたが、どうやら違うらしいということが大学に進学してわかった。森山は見た目もいいし人あたりもいい、割と成績もいい。だからあまり接点のない女がそれなりに寄ってくるけど言動がまずい。さらりと自分の理想の女性像を口にするしそれを悪いともなんとも思っていない。そのせいですぐにフラれ、その度にまた運命の相手じゃなかったとやけ酒に勤しむ。まったく付き合わされる身にもなって欲しい。

第一こっちは、何年も前からそういう意味での好意を持ってるんだ。なんで惚れたのかなんてもう思い出せもしない。ただふとした仕草や表情に鼓動を早くする自分がいる。もう慣れてしまって顔には一切出さないけれど、心中は複雑極まりない。不毛な恋にいい加減見切りをつけたいのだが、どう頑張っても上手くいかなくてそれすらも諦めた。いい友人としてこれからも付き合っていければそれで十分と思えるぐらいには俺も大人になったのだ。


「…かさあつ、ビールなくなっちゃった」
「誰だよカサアツって。飲み過ぎだバカ」
「たりなぁい」
「一升瓶開けて何がたりなぁいだ。立て、トイレ行くぞ」
「なんれ…?」
「吐かせる」
「ぅぃっ締まるっくびっ!くびいー!」
「嫌ならさっさと立て」
「乱暴いくない!」
「うっぜえ、うざい、可愛くない」


嘘、上目遣いちょっと可愛いけど、それを上回ってうぜえ。
強引に席を立たせて引っ張った。急性アル中にならないためにも体からアルコールを出してやりたいのだが、何度経験しても気が重い。好きな相手とはいえ、むしろだからこそ、何が悲しくて男の嘔吐を手伝わなければいけないのか。


「おら、吐け」
「…いやだ」
「さっさと吐けよ、死ぬぞ」
「いっ居酒屋の便器なんてどんなおっさんが座ったかしれないと、こに!顔をちかづけるなんていやだ!」
「いい加減その妙な潔癖治せ!」


いつ人が来るかもわからないから洗面台で吐かせる訳にもいかず、毎回個室に入るがいつもここでぐずる。俺としては出来るだけ飛び散らないようなるべく顔を下にしてほしいが、申し訳程度に腰を折ることで譲歩してやってるんだ。感謝してほしいぐらいだ。誰が飛散した嘔吐物拭くと思ってる、俺だぞ。

濡れることも厭わず、がっと勢いよく口に指を突っ込んで喉の奥を刺激した。呻きと一緒に出てくるのは驚く程に液体だけで、固形物が一切ない。悪い飲み方の典型だ。本日何度目になるかわからない呆れの溜め息が出た。


「うぅぇ〜、う、げぇぇっうぐっ」
「はぁ」
「おぇ、げえぇ、うっ」
「まだ出るか?」
「んっかさま、ちょっもうい、も、ギブ!」
「…お疲れさん」
「〜っ笠松最低!いつもいつも、ほんと、無理矢理とか最低!」
「あーはいはい、悪かったな」


一先ずトイレットペーパーで自分の手を森山の口周りを拭いて出したものと一緒に流す。
涙目で荒い息を整える森山はあっという間に元気を取り戻したようで、


「…アルコール抜けた。お前んちで飲みなおすぞ」


ふざけたことを抜かしやがった。



◇◆◇◆



「たっだいまー!梅子ぉー愛しの由孝が帰ってきたぞー」
「俺んちだよ、靴脱げ森山」


酒が抜けたというが森山はどこかおかしなテンションを引きずっている。俺の部屋に着くなりうちの愛犬の名を呼んだ。

一昨年の暮れだったかに実家で飼っていたダックスが子供を産んで、珍しくもペット可だったこのアパートで俺が一匹引き取った。茶色い毛のメスで、一番初めに思いついた「梅子」と名付けた。そういえばあの時森山も一緒にいてもっと可愛い名前にしようぜ、ジョセフィーヌとか!なんて言われた気がする。もちろん即刻却下した。


「んぅー、梅子は可愛いなぁ、由孝さんが抱きしめてあげるよぉ」
「おい森山」
「あったかいなぁ梅子は、ちゅーしちゃうぞ」
「おいやめろよ!ゲロ臭い顔梅子に近づけんな!!」
「ひっどい!由孝泣いちゃう!」
「いいから梅子離せ、梅子には何の罪もないんだから」
「いや、強いて言うなら可愛すぎるところが罪だと思う」
「ちょっとお前黙ってろ」


子煩悩の自覚はある。だからこそ森山に我が物顔されるのは嫌だし、うっすらとだけど、梅子に森山を持っていかれるのも嫌だと思う気持ちもある。これだから家に連れてきたくなかったんだ。森山の家よりも居酒屋から近いという理由だけで二次会の会場が決まってしまう。


「梅子ぉ、俺にはもうお前しかいないんだよぉ」
「…(俺もいるだろ)」
「梅子はあったかいし大人しいし俺のことフラないし、俺のこと好きだもんなー。んっふふ、俺も好きだぞぉ」
「はぁ、森山鬱陶しい(俺だってお前のこと好きだってぇの)」












早川「犬っていったあ黄瀬思い出しますね」
笠松「梅子に謝れ」


続かない(^ω^=^ω^)
130217




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