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放し飼いの恋人

※嘔吐




※吐いてるよ!




足取りが覚束無い。くらくらくらくら。頭も指先も、体中が火照って熱い。
はっきりしない視界と帰巣本能に頼って無意識に足を動かした。あとどれくらい歩いたら家に帰れるだろうか。奴は寝ないで待ってくれているだろうか。


また今日も飲みすぎた。何件もハシゴして何杯もアルコールを煽った。むしゃくしゃして忘れたかったから。付き合ってた女の子に振られたから。違うゼミの子達との合コンで知り合った子だ。今回はきっかり二ヶ月で終わったけど、自分にしてはかなり長続きした方。
ああ、頭痛いや、耳の奥がギンギンする。表札をかけていないアパートの扉を確認して鞄から鍵を取り出そうとした。指先の感覚がなくて鍵が逃げてしまう。諦めて試しにドアノブを回せばあっさり回って扉が開いた。


「こぼいーいるー?たあーいまー」


上り框に雪崩込んで同居人の名を呼んだ。電気がついてるってことは、まだ起きてるってことだ。ふわふわした頭で考える。


「森山!遅かったな。…また飲んできたのか」
「うー、だってまたふあえちゃったんだぁ」
「早川みたいになってる。水持ってくるから上着脱いでろ」
「ん…こぼい、んぅ…吐く」
「…洗面所」
「うっぇぇ、うぷ、げほっげえぇ」
「あー…平気か?まだ吐く?」


優しさに安心したのか、我が家の臭いに安心したのか(どちらにしろ小堀に安心したのだ)吐き気が一気に襲って堪えられなかった。あーあ、玄関汚しちゃった。多分これ掃除するのも小堀なんだろうなぁ。消化しきれないで吐き出した酒のつまみを見てぼんやり思う。胃液臭さにつられてまた吐きそうだ。
背中をさすってくれた小堀の手を避けて立ち上がる。洗面所まで、歩けるかなぁ。


「洗面所」
「行ってらっしゃい」
「こぼりは」
「ここ片付けるよ」
「やだ、ついてきてよ」
「…はいはい」


小堀は俺の手をとって前を歩いた。口の周りを拭ったときベタベタしたのがついたのに。あーあ、汚いんだぁ。
洗面台の前に立って蛇口を捻る。吐き気はもう喉まで来てたけどダメ押しで舌の根元に人差し指を引っ掛けてみた。げぇ。


「うっうっぇ、ぐげぇ」
「もうちょい?(液体ばっか、よく飲んだなぁ)」
「んーん、ぜんぶ吐いた」
「お疲れさん」


差し出されたタオルで顔を拭く。おまけにさっきみたいに背中をさすってくれた。


「こぼり…」
「なに?」
「俺やっぱお前じゃなきゃだめっぽい」


そう言うと小堀は満足そうに笑った。洗面所には酸っぱい匂いが充満している。




嘔吐シリーズ始めたい
130208




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