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氷室と実渕

「君はとても魅力的な人だよ、レオ」
「嘘よ、嘘。だって私、たくさんの男(ひと)を愛してきたわ。誰一人として長続きしなかったの。みんな私に愛想を尽かせてしまったのよ。」

目を伏せた実渕はジャケットの内から煙草のケエスを取り出した。火がつけられてしまう前に煙草を奪う。驚きで顔を上げれば、氷室は苦笑いを浮かべる。大きな紫煙の瞳をくるりと開き、意図を読もうとじぃと見つめた。

「体に悪い」
「今更よ」
「歯が汚れてしまう」
「そうね」
「自棄になるなよ、レオ」

綺麗な君が好きなんだ。
耳元で囁かれた、背筋の震える甘言。
やあね、と実渕は笑った。氷室は彼の両頬に手を滑らせ、その唇をそっと抉じ開ける。爪の短い親指で歯列をなぞった。

「本当さ。瞳(め)を見て、くれないかい?」
「嫌よ、離してちょうだい」


私貴方のことを好きにはなりたくないわ。お馬鹿さんじゃないんだもの。意味はわかるでしょう。

笑んだ彼は美しかった。


2013.09.24 (Tue) 17:50




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