夜明け前
※吸血鬼×ダンピール
帝人→ミカエル、正臣→マティアス、杏里→アンヌ
「いやぁ、意外だね」
「……何がだよ」
無残に散らばった木材の破片をもくもくと拾い集めながら、静雄は一つ溜息をついた。
「まさか正臣くんと帝人くんが揃って転生しているとは思わなかったけど、それより何より、シズちゃんが彼らのことを覚えてた、って事が何より意外だったよ」
後先を考えずに放り投げた教壇はあちこち欠けていて、もう使い物になりそうになかった。
自分自身で壊して回った机や椅子の処理にうんざりした表情を浮かべながら、静雄は辛うじて原型を保っていた椅子の一つに腰をすえる。
残り少なくなった箱から先端の折れ曲がった煙草を抜き出し、口端に加えて火を灯した。
「正臣?帝人?……誰だそりゃ」
「もしかして、気づいてなかったの?」
ステンドグラスから降り注ぐ色とりどりの光を纏った男は、呆れた、と言うように溜息を吐いた。
「ほら、来良学園の。文明崩壊起こす前だからざっと数千年昔かな」
「あー……百年以上前のことは覚えてねぇわ」
今のこの世界よりよほど発達した文明で華やいだ時代。魔法や錬金術といったものが「非科学的」だと鼻で笑われていたその世界で、臨也と静雄は出会った。
互いの正体を知るのはもう少し後になってからのことだが、少なくとも臨也にとっては忘れ難い思い出の詰まった過去の一ページといえる。それをあっさりと「忘れた」とのたまう男に若干の苛立ちを感じながらも、臨也は皮肉めいた笑みを浮かべた。
「君の場合、去年の記憶も危ういだろう」
重力を感じさせない足どりで静雄の傍らへと歩み寄ると、真っ黒なローブをふわりと揺らし、音もなくその隣へ腰を下ろす。
「……ていうか、だったらなんで急にやる気になったわけ?」
「あぁ?迷える子羊は救ってやんのが道理だろうが」
「うっわぁ、何度も言うようだけど、心底似合わないね」
「うるせぇ、殺すぞ」
紫煙を撒き散らしながら唸る静雄の襟元にするりと指先を滑らせ、臨也はその首をゆるゆると撫でた。
「はいはい。俺以外の吸血鬼をみーんな殺せたら、ちゃんと君に殺されてやるさ」
ぴたりと合わせ目を留めていた金具を指先で弾いて、立ち襟の隙間を人差し指と中指でくすぐる。
不埒な手の意図を悟った静雄は吸い指しの煙草をテーブルの端で揉み消し、臨也に向き直ると、自らの手でキャソックのボタンを一つ二つと外していった。
「……君ねぇ、もう少しムードとか出せないの」
「メシ食うのにムードがどうとかほざいてんじゃねえよ」
眼前に晒された無防備な首筋に、臨也の喉がはっきりと上下した。普段は余裕ぶって体裁を崩さない男の欲に塗れた表情が、静雄は中々に気に入っている。
もう少し焦らしてやっても面白いかもしれない、と口元を緩めつつ、素直にその首筋へと腕を回す。以前似たようなことをして思い切り噛み付かれ、思わぬ深手たことを思い出したのだ。
「……っ、ん」
ナイフのように研ぎ澄まされた犬歯が、ずぷりと肌に埋められる感触に静雄は小さく背筋を震わせた。
「ッ、がっつくんじゃ、ねぇよ」
何度経験しようと、この一瞬に慣れることはない。「喰われる」という本能的な恐怖と、ほんの少しの愉悦の入り混じった言い表しようのない感覚。
静雄自身の血でぬるついた舌が皮膚の表面をぞろりと撫で付け、「もっと」と強請るように薄皮を行き来する。
「無茶言わないでよ。二週間ぶりの食事なんだから」
西の大きな町でヴァンパイア退治をしたのは、十月に入ってすぐのことだった。
静雄と臨也の関係は実に明瞭なギブ・アンド・テイクで成り立っている。ヴァンパイアである臨也は、吸血による隷属化をまぬがれる特異体質を持つ静雄から血を受け取る代わりに、同属を狩るための力を彼に貸し与えているのだ。
ゆえに、臨也が血を吸う頻度は、いやがおうにも依頼を受ける回数に比例する形になる。せめてもう少し頻繁にハンターとしての仕事が舞い込んでくれれば、ここまで枯渇することもないのだけれど。
静雄にマネジメントがどうのと説教を垂れたところで、馬の耳に念仏だろう。かつての経験を活かし、臨也が町役場と交渉を計れば依頼は増えるかもしれないが、わざわざ人気の無い場所を選んで隠れ住んでいる男にとっては、迷惑なだけの話に違いない。
溜息をつきたいところをぐっと堪え、臨也は久方ぶりの血を堪能することにした。とろとろと喉を伝って腹の中に溜まっていく生ぬるい血液は、世のヴァンパイアが好むという処女の血よりも更に濃密で甘い。
すっかり力の抜け切った背中をゆっくりと長椅子に横たえ、血に汚れた唇を静雄のそれに重ね合わせた。眉をしかめた男の唇を割り開き、口腔内に広がる鉄錆びの味を唾液と共に注ぎ込んでやる。
「半端ものとはいえ、君だって飢えてるはずだ。よかったら俺の血を分けてあげようか」
「……っ、余計なお世話だ」
乱れた衣服を手早く整え、静雄は自らに圧し掛かる男を押しのけて身体を起こした。あわよくばこのままベッドに縺れ込んでやろうと考えていた臨也は、不服そうに唇を尖らせてうっすらと汗の滲んだ横顔を睨む。
「残りは、仕事を終えたらくれてやる」
――本当は自分だって期待していたくせに、痩せ我慢しちゃって。
含みをもった臨也の笑みを一瞥すると、静雄は箱の中で忘れ去られていた最後の煙草に火を灯した。







昨年のアニくじに萌えたぎった結果。
公式が良いお仕事しすぎて二次の入り込む隙が無い。ので、非常にベタな話になりました(笑)
静雄は吸血鬼と人の混血でダンピールと呼ばれる吸血鬼殺し。
臨也さんと二人で時々お仕事したり、お仕事の報酬に血をあげたり、エッチしたり。
吸血鬼同士のセックスは相当な快楽をもたらす(らしい)ので
半分とはいえその血が混ざってる静雄も臨也にとっては最上級のご馳走なのです。


杏里ちゃん(アンヌ)を狙ってる吸血鬼は那須島の生まれ変わりのタラシ吸血鬼で
依頼を受けた静雄が那須島に喰われかける…っていうシーンを書きたくて書き始めたのにそこまで行く前に力尽きましたw
続きもいつか書きたい。


(2013.3.11)





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