朧月夜-伍-
※軍人臨也×男娼静雄

「う、ん…………」
静雄がふと意識を取り戻すと、ちゃぷ、と微かに水音が聞こえてきた。ぼんやりと白む視界と、身体を包み込む暖かな湯の感触で、自分が湯殿にいるのだという事に気づく。
「目、覚めた?」
「?!」
耳元で囁かれ、ぽやんとどこか夢見心地だった静雄は一気に現実に引き戻された。
「臨っ……!ぶあっ!!」
「あっははははは!」
咄嗟に振り返った拍子に、湯船の底で足を滑らせた静雄は鼻先まで湯に沈み込んだ。思わず湯を飲み込んでしまい、げほげほと咽る静雄を指さして、臨也は子供のように無邪気に笑う。静雄は湯船のふちに手をかけると、ざばっ飛沫を上げてと立ち上がった。
「なっ、な、ななな何で!」
「いや、さすがに二人ともどろどろだったからね」
「そ、そういうことじゃねえ!」
何で一緒に入る必要があんだよ!と怒鳴りつけたかったが、不覚にも意識を飛ばしてしまっていた自分がどうこう言える立場ではないと気づき、しぶしぶ肩まで湯に浸かり直した。狭い浴槽に男二人。自分は一体何をしているんだろうとため息を吐く。
そんな静雄の様子を気に留めるでもなく、臨也は華奢な背中を背後からそっと抱きしめた。
「……狭ぇ」
「うん」
「お前、馬鹿だろ」
「うん」
ほのかに淡い桃色に染まった静雄のうなじにまたひとつ口付けを落とし、縋り付くように額を押し付ける臨也。
「ありがと、シズちゃん」
呟いた言葉に返答はなかったが、真っ赤に染まった静雄の耳を目にした臨也は満足げに目を細めた。








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