朧月夜-参-
※軍人臨也×男娼静雄

「……シズちゃん?」
座敷に用意された布団に二人で横になりながらぽつりぽつりと互いの近況などを話しているうちに、よほど疲労が溜まっていたのか静雄はいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。別段それを咎めるでもなく、臨也は長い睫の伏せられた瞼に口付けを落とし柔らかな髪に指を通す。
「……ん」
静雄が小さく身じろぎをしたので、彼の髪を梳く手を止めた。
「わり、眠っちまった……」
「いや、疲れてるみたいだしもう少し横になってたら?」
「……金払って貰ってるのに寝てるだけとか、まずいだろ」
「律儀だねぇ」
むくり、布団から起き上がった静雄の肩からするりと襦袢が滑り落ちる。白く薄い胸板が露になり、臨也は思わず彼に触れそうになる衝動を懸命に抑えた。触れられないならせめてとばかりにじっと見つめていると、外気に晒された肌の一点で思わず視線が止まる。
「……これ、どうしたの?」
「?……ああ、これは…昨日の客が――」
「……っちょっとごめん」
「、臨也?」
静雄の制止も聞かずに彼の身を包む襦袢の腰紐に手をかける。ゆるく結ばれているそれを解くと、合わせを開いて強引に脱がせた。
「おい、何なんだよ急にっ……!」
「何、これ」
薄地の襦袢の下に何も纏っていない静雄の身体を見下ろして臨也は思わず息を呑む。
初めて見る静雄の身体は、臨也が想像していた以上に白く美しかった。 しかし、その滑らかな肌の上には幾つもの生々しい傷が浮かび上がっている。刃物で切りつけたものとは違う、ミミズ腫れのような赤い筋。加えて、両手足には何かで縛られたような跡がくっきりと残っていた。
「昨日の客がな。常連なんだけど、ちょっと変わった性癖しててよ」
「…………」
「最初は姉さん達が相手してたんだけど、女が身体に傷残したら店に出れなくなっちまうってんで、俺が相手してんだ。まあ、男娼の俺なら身体に傷あっても誰も何も騒ぎゃしねぇし」
「シズちゃ、……」
「その分そいつ凄ぇ良い額落としてくしな。……こんなんすぐ消えるし問題ねぇよ。
つーか悪ぃな、変なもん見せちまって」
歯を見せてにかっと笑うと、静雄は床に落ちた襦袢を肩にかけ傷を隠した。掻き抱くように襦袢の襟元を握り締める手首の傷は、間近で見れば鬱血を通り越して滲み出した血が瘡蓋を作っている。
臨也はこらえきれずに静雄の肩を抱き寄せ、首筋に顔を埋めた。
「辛いのに、俺の前で無理しなくていいよ」
「……いざ、…?」
そのまま布団に静雄の身体を押し倒すと、今しがた羽織ったばかりの襦袢を開く。
「抱く、のか?」
「いや?まだ接吻させてもらってないからね」
にこりと笑うと、静雄の胸板に横一文字に走る真新しい傷に舌を這わせた。唾液を塗り付けるように、赤紫に変色した跡を丁寧に辿っていく。
「ん……っ、」
「消毒するだけだよ」
「消毒、って……ひっ」
つぅ、っともう一度舌先で優しく傷をなぞると静雄がわずかに身体を捩った。生業柄、身体に火がつきやすいのかもしれないなと思いつつ、臨也はゆっくり傷の一つ一つを舌でなぶる。胸、わき腹、腕、と唇で辿るうち、妙に静かだなといぶかしみ顔を上げた。
「あっ、……こら!」
「ふ、ぅう……っ」
「新しく傷増やしてどうすんの」
見れば静雄は甘声が漏れぬようにと、真赤な顔で自分の指を噛み締めていた。
「手、貸して」
「でも、声……出ちまう、からっ」
「気持ちいいなら声出してもいいからさ。シズちゃんのイイ声もっと聞かせて?」
「っかやろ……んぅっ……!」
歯型の付いた指を口に含むと、それだけで静雄はびくびくと身体を揺らした。労わるように舌でなぞり、長い指を伝う唾液を絡めとりながら指の股も舌でくすぐってやる。
「はは、きもちいいの?」
「るせッ……」
「だって、シズちゃんのここ……もうこんなだよ」
頭をもたげかけている静雄の中心をそっと撫でると静雄はいやいやと首を横に振る。なるほど、加虐思考の客が喜びそうな反応だと妙に納得してしまい、臨也は若干の自己嫌悪に陥った。
「大丈夫、痛いことはしない」
耳元で甘く囁き、涙に塗れた目元に口付けを落とす。そのまま唇を下に滑らせ、うっすら汗の滲む首筋に吸い付いた。右手は静雄のモノをやわやわと扱きながら、もう片手は薄く色づく胸の飾りを転がす。
「ぃざ、っや…あ、ぁ……ふぁっ!」
「は、やらしい声。俺これだけで達けそ」
耳元に寄せた唇から熱い息と共に臨也が囁く。羞恥を煽られた静雄は思わず拳を振り上げるが、握り込まれた熱にぐり、と甘く爪を立てられ、びりびりと背筋を駆け抜ける快感から、それを臨也に叩き込む事は叶わなかった。
「……の、変態やろっ…んんッ」
「その変態の手で感じてるのは誰だろうね?」
「……っゃ、んっ…も、あぁ、ぁっ……ッ!」
いつの間にかしとどに溢れた蜜で、臨也の手の動きも徐々にすべらかになっていく。くちゅくちゅと卑猥な水音をたて、絶頂を促すように静雄の中心を扱きたてながら、許されない接吻の変わりに柔く耳たぶを食んでやると、静雄は臨也の首に両腕を絡め、ぎゅう、と縋り付いた。
「い、っざや、も……はぁっ…だめ、だぁ、あっ……!」
「ん、良いよ」
「ひ、んっ、んあああぁぁっ……!!!」
臨也の掌の中で熱を弾けさせ、静雄はそのまま意識を失った。






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