パープルハート
「はっ、ん、…に……ぼさっとしてん、だよ……」
「集中しろ」と促されて、シズちゃんの孔に指を突っ込んだまま、ぼんやりと思案に耽っていた間抜けな自分に気づく。十分にほぐれて誘い込むように収縮しているアナルからゆっくりと指を引き抜くと、シズちゃんはもどかし気に身体を捩って鼻にかかった吐息を洩らした。
一旦身体を起こしてから、汗ばむ背中に張り付いたシャツを脱ぎ捨て、窮屈そうにパンツの中に納まっていた自身を取り出した。既にビンビンに反り返っている俺のペニスを目の当たりにして、ごくり、喉を鳴らしたシズちゃんは、意を決したように左右に脚を開く。
「……ねえ、やっぱり――」
「や、めろ……!!」
肌に食い込んだロープの結び目に手をかけた瞬間、部屋中の空気を震わせる怒声が響き渡った。熱っぽい雰囲気がすっと引く気配がして、シズちゃんは一瞬だけばつの悪そうな顔をしてみせた。
「……わり、ぃ。でも、このままで…良い、っから……ッ」
こちらを睨み付けていた目は、すぐさま逸らされてしまう。まるで俺の言葉なんか聞きたくないと拒絶されているようで、悲しくなった。
「けど、こんなの……」
俺もシズちゃんも、互いに興奮は極限まで高まっているはずなのに、二人の間にはいつの間にか見えない壁が出来上がってしまっている。
誰よりも近くで互いの熱を分け合っているはずなのに、彼がどんどん遠くにいってしまうようにすら感じられ、唐突に怖くなった。



ようやくヒビの入っていた肋骨が完治して、さてシズちゃんに夜這いでもかけるかなと性懲りもなく目論んでいた矢先。シズちゃんがロープを持参してやって来た時はにわかに驚いた。
そして、それで自分を縛ってから抱けと言った時の衝撃は――もはや言葉では表しようもない。
自分の気持ちばかりを押し付けて、彼の気持ちを考えて来なかったツケがこれだ。
こんな最低な状態を作り上げてしまったのは、他の誰でもない。俺自身なのだ。だったら、シズちゃんの気持ちを汲んでやるべきなのだろう。そう考えたからこそ、彼の言葉に従ってこんなマニアックな状態を作り上げもした。
けれど――。
「……ごめんね」
顔を背けている彼の耳元で一言詫び、シズちゃんの身動きを封じていた結び目を強引に引っ張った。焦っているためか、指先がもつれる。親にもらったプレゼントの梱包を、手荒く破り捨てる子供と同じだ。己の必死さに自分でも笑いが込み上げる。幾重にも複雑に絡みついた紐を全て取り去って、さっさとベッドの下に放り出した。
「なっ……?!…ひ、ぅんッ、」
突然の暴挙に呆気に取られているシズちゃんの隙をついて、密着させた身体を強引に抱き込んだ。互いに汗ばんだ肌と肌が触れ合った瞬間、彼が緊張に小さく息を詰めたのが分かったが、俺は構わずに、充分すぎる程ぐずぐずに解したアナルに自身の先端を埋めていく。
「ひ、あ、っぁああ……ッ!!」
「く――…………ッ」
いくら丁寧に慣らしたとはいえ、さすがに初めて異物を受け入れるそこは狭い。強引に押し進めてしまいたい衝動を何とか抑えつけ、少しずつ馴染ませるように浅い注挿だけを続けた。
半分ほど収まった所で、ふと動きを止めてシズちゃんへ視線を落とすと、彼は必死にシーツを握り締め、襲い来る違和感と衝撃に懸命に耐えている様子だった。
「ん、……シズ、ちゃん」
耳殻を甘噛みしてやりながら呼びかけると、涙で濡れた睫がゆっくりと持ち上がった。やっと視線が絡まった事に心のどこかで安堵しつつ、目尻に口付けを落とす。
シーツに皺を作っている手を取って、その指の間に強引に己の指を割り込ませた。満足気に笑みを浮かべた俺とは正反対に、シズちゃんは分かり易い程さっと顔を青褪めさせる。
「っ、馬鹿、ッやめ、ろ…俺、また……ッん、ぅ――っ」
それ以上の言葉を口にさせたくなくて、俺は自らの唇で彼の声を飲み込んだ。


『もう、てめぇに怪我させたくねぇんだよ。…こんな、……化け物みたいな力で』
俺にロープを手渡した時。シズちゃんは一体どんな気持ちで、あんな言葉を口にしたんだろう。
そうまでして自分と一つになろうとしてくれた事は純粋に嬉しかった。けれど、彼の顔を見た瞬間、浮き立ちかけた気持ちはあっという間にしぼんだ。
涙など一欠けらも流してはいなかった。しかし、あの瞬間シズちゃんは確かに泣いていたのだと思う。そんな顔をさせてしまったのは、俺の落ち度だ。
「ん、はっ、……あ、っぁ!まて…って、ひ、ッ手……っ、はなせっ…あぁっ!」
「……っ、は…嫌、だね」
仰け反った白い喉元に噛り付きながら、ゆるく腰を前後させる。振りほどかれないようにしっかりと骨ばった指を握り締めた。
「……指ぐらい、シズちゃんに…あげる、よ」
「ぁっ、ぁ、……なっ、に…言、ッんぁ!」
「――だって、俺は君の初めてを貰うんだから。これで、おあいこ…ッだろ?」
ひくひくと蠢く内壁に誘われるまま、一気に残り半分を最奥へ押し入れる。絡み合った指がみしりと鈍く軋む音がしたが、構わずにピストンを再開させた。
「…っば、かじゃねぇ、のっ……ん、ぁっ、ひッ…!」
強弱を付けて中を穿つうち、シズちゃんの声からはみるまに余裕が消え去っていく。
二人の間でゆるく頭をもたげていた性器は、いつの間にやら俺の腹に擦れる程にしっかりと勃ち上がっており。快感から逃れようと身体をくねらせる様が言いようもなく濫りがわしくて、俺はまるで性行為を覚えたての子供の様にでたらめに腰を振った。
互いの吐息を交換しあうように何度も口付け、合間に彼の名前と愛とを交互に囁き続けた。そうすると、シズちゃんの中は面白いほどきゅうきゅうと俺自身を締め付ける。
愛され慣れていない彼はこのまま中毒死してしまうのではないか、という考えが脳裏を過ぎったが、もし自分の愛がシズちゃんを殺すのだとすれば、それはそれで幸せな事のようにも思えた。
「ひ、ぁ、ッん…あぁっ、あぁ、んっ……ッァ!」
絡め合わせた右手はほとんど感覚が無く、麻痺したような状態だったが特に気にもならない。
シズちゃんは空いていたもう片方の手で恐々と俺の後頭部を引き寄せた。求められるまま、再び口付けを交わす。どちらの物かも分からない汗を含んだ唾液は少し塩辛かった。
「はぁッ、…もちい……。シズちゃっ…はッ、どう?気持ち、いい……っ?」
「……っんな時まで、てめぇは…ゴチャゴチャ、うるせぇ、奴だな……っ、んっ」
必死に体面を取り繕おうと上ずった声で悪態をつく様すら愛しく映るのだから重症だ。
ギリギリまで引き抜いたペニスの亀頭で入り口を引っ掛けるようにして突き上げると、シズちゃんの身体がひくひくと痙攣を始めた。限界が近いのかもしれない。
唇からだらしなく滴る唾液は喉元を伝い、くっきりと浮かび上がった鎖骨に溜まっていく。ゆっくりと時間をかけて舌先で首筋をなぞり上げ、最奥に叩きつけるように腰をぶつけてやる。
「……あっんぅ、いざッ…だめ、だ…っぁ!っ、」
「ん、何?…何がだめ、なの……?」
「…ッ、ぁっ、も、も……っイ、く…イっちま、うっ、ァ、んあぁっ」
ピンと突っ張っていた足の爪先を俺の腰に絡めて、悲鳴にも近い啼き声を上げるシズちゃん。
理性なんて保てる筈がなかった。ベッドのスプリングの浮き沈みにタイミングを合わせてラストスパートをかける。安物のパイプが軽快なリズムを刻み、肌と肌が触れ合うたびにパンパンと派手な音を立てた。
「……あっ、ひん!いざや、ぁ、――いざ、やぁッ……!」
体中を包む全ての音がどこか遠くで響く中、シズちゃんが俺の名を呼ぶ声だけがはっきりと耳を打つ。
絡めていた指を無意識に解いて、真っ赤染まった頬を両手で包み込み夢中で口付けを与えた。汗にまみれたシズちゃんの長い腕が首に絡みつくのを感じ、このまま首の骨を砕かれたら最高に幸せな腹上死ができるのに、と自らの馬鹿な考えに苦笑した。

「は、……はぁ、臨也…。おい、……生きてっか?」
「……ん、死にそう」
気持ちよすぎて、と言ったらテレ隠しのデコピンをお見舞いされた。
今日一番痛かったのは、実はこの一撃のだったような気がする。






匿名希望様リクエスト。

 
『臨静初H』でした。
雰囲気の指定はなかったので、甘くするか殺伐にするか迷った末
もう見てるこっちが恥ずかしいよ!って感じのラブラブっぷりに・・・。
縛りは単なる私の趣味でついたオプションです(笑)
初のお話はいつか書きたいな〜と思っていたので
とても楽しく書かせて頂けました。


この度は企画にご参加ありがとうございました!
匿名希望様のみお持ち帰り可となっております。


(2011.10.27)



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