時計塔の針は、夜の九時を回っていた。
『外出危険』を知らせるチャイムの音に、彼女は書物に埋めた顔を上げた。


「……あら、もうこんな時間」


魔物が活発に活動し始める時間帯は、日付変更の十二時頃から明け方までの約4時間と少し。しかし、闇に包まれる中での外出は非常に危険だ。勿論のこと彼女もそれを承知しているが、特に心配した様子はないようだった。
手に持っていた書物を手前の本棚に戻すと、彼女は緩くウェーブしたブロンズの長い髪を揺らして振り向く。

迷路と言われても可笑しくない位に、天井近くまでそびえる本棚が詰められた書庫。
その一角からひょっこりと、はね気味の短い黒髪が覗いた。



「そろそろじゃないかと思ってお迎えに上がりましたよ」


「ありがとう、ロセウスくん。よく此処が分かったわね」


「武人の勘を舐めないで下さい。そうでなくとも貴女の行動パターンくらいは掴めてるつもりですがね」



苦笑して本棚の影から姿を現した彼は、かなりの高身長だった。

二メートル近くはあるのではないかと言う高い背。切れ長の目は深い桃色をしているが、此処らでは特に珍しくもない。
格好はと言えば、白い長袖のシャツにダメージジーンズという至ってラフなもの。そのジーンズの膝丈までを隠すのは頑丈そうな白いベルトの、黒革のブーツ。
革製品の茶のポンチョに隠れるように背負われている一メートルを超える大剣が、彼の唯一のおかしな点だった。


しかし彼女はそれには目をくれることもなく、柔らかに笑って彼の隣へつく。



「いつもごめんなさいね、夜遅く」


「いや、むしろ貴女のような綺麗な方と歩けて光栄ですよ……って、なんか俺らしくないか」


「ふふ、随分お世辞が上手くなったのね。お宅の隊長みたい」


「あの人には遠く及びませんって」



談笑をしながら、二人は書庫の扉を開き外へ出ていく。パチリと電気を消す音が響き、書庫は暗闇に包まれた。


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