稲妻(予備) | ナノ
吹雪のおふざけも終わり、わたしたちは改めて店内を物色しはじめた。しかし、正直わたしはまだノープランである。だからいっちゃんが歩くのについてわたしも歩いていた。いっちゃんは円堂にシャープペンをあげようと思っているのか、雑貨屋を移動するたびに文具のおいてあるコーナーを見ている。
様子を見て、「これなんかどうかな」と、オレンジ色が基調としてあるシャープペンを薦めてみたら、「これか、いいな」とにっこり笑ってくれた。仄かにほっぺたがピンクになっていて、やっぱりいっちゃんも恋する乙女なんだなあと思った。可愛いなあ。吹雪? 吹雪だって、なんかアレだけどやっぱり恋する乙女なんだ。可愛い。(アレっていうのは、なんかもう察してほしい)
「あっ」
「? どしたのいっちゃん」
「あれ、南雲じゃないか」
「晴ちゃん?」
いっちゃんが不意に棚を一つ挟んだ向こう側を指さした。
晴ちゃん、というのは、同級生だけどいつもよくしてもらっていて、わたしのお姉さん的存在の人。なんだかさっぱりとした男らしい性格(もちろん良い意味で)をしていて、持ち物だってぷりぷり女の子らしいようなものは少なかった。その晴ちゃんが、なんでこんな女の子らしい、ふんわりしたお店にいるのだろうか。いや、居たらダメだってわけじゃないんだけど。決してそんなわけじゃないんだけど。やっぱり、ううん、珍しいなあ。
いっちゃんに、ちょっとだけ待っててね、と言ってその場を離れた。いっちゃんもすっかり理解してくれていたようで、とくに何も聞いてこなかった。目的はもちろん晴ちゃんだ。何を見ているのか、とりあえずわたしはそれを知りたかった。
すこし遠回りをして、ひとまずわたしは晴ちゃんのいるとなりの棚に立った。さすがにいきなり「はーるちゃん!」なんて抱き着く勇気はなかった。なんとなく後ろめたさみたいなものを感じていた。ちらり、と横目で見遣ると、何やら商品を手にとっては一生懸命に吟味している。時々うぅんと唸ったりしてみて、なんだかいつもの晴ちゃんじゃないみたいだった。
しばらくして何にするか決めたらしい晴ちゃんが、選んだものをそっと優しく小さなカゴに入れてレジへと向かった。「あっ」と思ったときにはもうおそくて、すでにレジでお金をはらってしまっていた。はらう前には声をかけようと思ってたのになあ。しかたなく、レジから戻ってきたところに声をかけた。
「晴ちゃん、」
「っうわあ!?」
お……盛大に驚かれてしまった。そんなつもりはなかったんだけど。「なんだリュウか…急に肩触られたからびっくりしただろ」晴ちゃんは目をぱちくりさせてそう言って、いつものように豪快に笑った。
「ねえ、さっき買ったものって風介にあげるの?」
「えっ、なんで」
「うーん? だって今の時期だったらそうかなあって……違ったかな」
まあ途中からある程度の予想は出来ていた。よくよく考えれば今の時期だったらクリスマスプレゼントだと考えるのが妥当だろう。
「だって、風介がうるさいから」
「やっぱりか。風介こういうイベント事すきだもんね。面倒くさがりのくせに」
「そうなんだよなあ。はたしてあたしはプレゼントを貰えるのだろうか」
「うっ…うん、大丈夫だよ!」
「まあ、乞うご期待ってとこだな」
そんな話を二、三分してわたしたちは別れた。うーん…晴ちゃんも可愛かったなあ。クリスマスって変な魔法でもかかるのかな。どうせならわたしにもかけて欲しかったよ、サンタさんめ。
わたしが晴ちゃんが渡す相手を分かったように、晴ちゃんにもわたしが誰にあげるのかわかったらしい。まあ告白するのには晴ちゃんにも色々手助けしてもらっちゃったから、バレるのも仕方ないんだけど。
「喜んでくれるといいね」「食い物のほうがよかったって言われたらどうしよう」そんな話もしたけど、ね、大丈夫。風介は晴ちゃんが思ってる以上に晴ちゃんのこと溺愛してるから。晴ちゃんはやっぱり笑顔で去っていった。「ヒロト、ニット帽が欲しいって言ってたぞ」そんなプチ情報を残して。
晴ちゃんのおかげで、中々決まらなかったヒロトへのプレゼントが決まった。もちろん決定打は晴ちゃんが囁いていったことばだ。
「いっちゃん!」
「お帰り、遅かっ…」
「ヒロトにあげるもの、決まったよっ!」
「ああ、よかったじゃないか! なら早速探しに行こうか」
いつのまにか、吹雪も大量の紙袋をかかえて戻って来ていた。「何買ったの」と聞いたら「ええ〜、リュウちゃんにはまだ早いよぉ」と言われた。何を買ったんだ何を。