稲妻(予備) | ナノ

 現れたのは相変わらずの二つの耳だった。帽子を取った犯人、アフロディが一瞬固まったように思えた。

 あああ、やられた。油断するんじゃなかった。よくよく考えればあのアフロディだ。どこぞの女子高生だと問いたくなるようなテンションのあのアフロディだ。油断なんてすれば、してやられる事なんて少し考えれば解ったはずなのに! というか、朝の事を何故既に忘れているんだ。三歩歩いたら忘れるのか。ニワトリなのか。

 食堂に入ってきたときと同じように、いっせいに私に視線が集まる。私に、というか、私の頭に。

「ガ…ゼル?」
「あっあぅ、……ぅ」

 思わず吃ってしまった。俯いて、羞恥から赤くなってしまった顔を隠す。じわり。あ、やばいな、目の前が滲、む。






「かっ……、かわいいねガゼル!」
「……は」
「何なのこの耳! 毛並みもすっごい綺麗だし……。何より色がすっごい綺麗! まあ僕の美しさには敵わないけ」
「…へ、変だと思わないのか?」
「どうしてさ? こんなに可愛いと思ったのは円堂くんを見たとき以来だよっ」

 朝の反応は、なんだったんだ? 詐欺か、詐欺なのか? 詐欺……なんの詐欺だ。周りのみんなもポカン、とこちらを見たまま動かなかった。

「みんなも見なよ! 可愛いよね!」

 アフロディの言葉に、おう、だかなんだかを呟いて皆がわらわらと私のもとへと集まってきた。思ったとおりチナンにはからかわれたが。

 でも、なんだ、

「あっ……あんまり耳を弄るな馬鹿ものおおおおっ!」

 先程にも増して真っ赤になった頬は放置のまま、叫んだ。

― ― ―


「ガゼル、いつ消えたんだ? あの耳」
「一昨日。寝たら消えた」
「マジでか」

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