稲妻(予備) | ナノ
「何か変なものでも食べたの、ガゼル?」
アフロディが聞いてくるがそんなはずはない。私はそんなバーンみたいな馬鹿な真似はしない。きちんと食べても大丈夫なものなのか、確認してから食べる。
誰かの趣味の悪い悪戯かと思い、耳らしきものを引っ張ったり突いたりもしてみたが、取れることはなく、ぴくんと小さく動くばかりだった。繋がっている事に驚きながら、顔の横にある耳はどうなっているのかとまた恐る恐る手をやってみる。
「………」
横の耳もきちんと存在していた。つまり今、私はよっつの耳を持っているということだ。……そんなにも耳は要らないのだけれど。
どうしようか、ひきちぎるも切り落とすも出来ない。耳としっぽには感触まできちんとある。絶対痛い。痛いのは、嫌いだ。
「ひァっ!?」
突然しっぽに刺激が走り、私は思わず声をあげてしまった。見ればバーンがしっぽをぎゅうと握っている。
「……あ、ごめんごめん。どうなってんのか気になってよ」
そう言いながら頬を赤く染め、苦笑いで謝った。死にたいのか馬鹿ものが。
「さあて、どうする? 生憎僕はこんな事に巻き込まれた事なんて一度も無いし、治し方を知っているやつなんて居ないと思うけど?」
アフロディが仕切るように言う。当たり前だ。私だって巻き込まれた事なんて一度も無かったし、まさか当事者になるなんてかけらとも思っていなかった。
「……寝れば治る」
「へえ」
バーンがニヤニヤと笑いながら相槌を打つ。つん、とバーンが突く耳はガゼルの強がる言葉とは裏腹にしおらしく垂れていた。
―――こいつ、完全に馬鹿にしてるな。
こんな耳さえ無ければいつも通り悪態をついて逃れられるのに、耳が心の内を晒すように素直に動く。これなんて虐め?