稲妻(予備) | ナノ

「僕を見てくれていないと嫌だって、言ったじゃない」

 どこか大人びたやつだと思っていた。いろとか、表情の変化だとか、反応だとか、色々な面で薄いやつだと思っていた。小さなやつだと思っていた。しかし、付き合ってゆくうちに、抱き合ってゆくうちに、それは総て俺の見当違いだったのだと気づいた。吹雪も、俺と同じ子供だ。

「ああ、わかってる」
「わかってないよ」

 ぎゅう、と強く力を込めて肩を抱き、頭を優しく撫でてやる。そうすると、吹雪はすびずびと涙を流しながら俺の腰に腕をまわした。

 人前で泣くことは絶対にない、泣くのは俺の前だけだ、と吹雪は言っていた。それが本当のことならば、俺はそれをひとつの自信としてもよいのだろうか。ひっくひっくと、合間合間にことばに成らない声を織り交ぜながら泣く吹雪のつむじを眺めながら、俺のこころのなかには優越感のようなものと、「面倒だ」という感情が奇妙に混じったものが渦巻いていた。

 正直、面倒だという感情のほうが強いような気も、する。生憎俺は染岡や風丸のような父性(母性?)は持ち合わせていないし、女子のような恋愛に必死になるような気持ちだって持っていない。自分が一番可愛くて、他人の気持ちは二の次三の次なのだ。だから、だと思う。恋愛は長続きしたためしがない。今目の前で吹雪が泣いているのだって、きっとその所為だ。やっぱりここでも自分が一番可愛い、吹雪が泣いているのよりも、自分が面倒くさくて仕方ないほうが重要なのだ。けれど、吹雪もそれは同じで。吹雪は自分を一番に見てくれていないのが嫌で泣いているのだ。

「ねえ、豪炎寺くん」
「……どうした?」
「みんなみんな自分が一番なんだよね。わかってるさ。僕だって自分が一番だもの。自分が可愛くて仕方ないから、こうして豪炎寺くんの胸で泣いているんだよ。わがままなんだよ、僕。自分を見てくれていないと嫌で、寂しいんだ。わかってるよ、自分でもわかってる。我慢したい、でもできないんだよ。だってわがままだからね。一人は嫌なんだ。ごめんね、わがままばっかりでごめんね、うざったいよね。それでも僕はそれを承知でわがままを言うよ」

 わがまま、という単語が何度も出てくるのは、頭のなかが整理しきれていないからだろう。それでもわかっている、総てわかっているのだと。それだけで、やっぱり吹雪は大人なのだけれど。

 ボロボロと涙は止まらない。しとしとと、べたべたと腹部が濡れてゆく。

「豪炎寺くん、お願い、僕だけ見ててよ」

 面倒だ。



∴わがままな×××

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