稲妻(予備) | ナノ

 そんなこんなで、再びわたしと吹雪、いっちゃんの3人で、今度は明確になった目的を達成させに、運よくデパートの中にあった帽子屋へ向かった。探すものはヒロトにきっと似合うであろう白色のニット帽だ。3人でいそいそとメンズものの置いてあるコーナーを漁った(言い方は悪いけれど)。

「…し、白色って無いの…?」
「見当たらないなー」
「うーん…」

 そこに置いてあったのは、黒や茶を始めとした深く濃い、落ち着いた色合いのものばかりだった。白色もあったにはあったが、デザインが気に入らなかったのでカウントしないものとする。

 さて、困ったぞ。わたしたちにはこれ以上プレゼントを探している余裕なんてなかった。デパートのなかには『蛍の光』が流れていて、時間を見れば20時40分。この店は21時閉店だから、ギリギリまで残ったとしても、あと20分がわたしたちに残されたタイムリミットだ。朝から出ておけばよかったなあ、なんて、今更ながら後悔した。

「今から探し直す時間ないよ、リュウちゃん」
「っ……。仕方ないな」

 こうなったら、最終手段だ!


― ― ―



「メリークリスマス!」
「プレゼント? なんだろう…。ありがとう、リュウ」

 クリスマス当日。ていねいに可愛らしくラッピングされたプレゼントを手渡す。ヒロトは微笑んで、わたしの頭を撫でた。セットした髪型が崩れないように。

 さて、問題はここからである。割れ物を扱うようにヒロトはプレゼントの包装を解いてゆく。表情がなんとも期待に満ちた表情で、すこしの罪悪感(そんなたいそうなものじゃないけど)に苛まれる。プレゼントを取り出したヒロトは、一体どんな顔をするのだろうか。

「わあ、帽子。俺欲しかったんだ…リュウ、知っていたのかい?」
「えっ、ううん、そんなことないよ」

 あれ…ばれなかった、かな?


― ― ―



「最終手段だ!」

 そう思い立ってわたしが向かったのは、違う雑貨屋でも、CDショップでもなく、帽子屋のなかのレディースコーナーだった。その中からわたしが選んだのは、白色の、なるべくシンプルで大きめのニット帽。「やっぱり女ものだと白とかって多いよね」「そうだなリュウ、とりあえずその手を離せ」

 わたしは、テンパっていた。テンパっていたのだ。


― ― ―



 にこにこ顔で帽子をかぶるヒロトを眺めるわたしの顔はさぞかし酷かっただろうに、「ありがとう」そう言って抱きしめてくれた優しさときたら。ああ、わたしはきっとこういうところに惚れてるんだなあと改めて感じた。聡いヒロトのことだからきっと気づいているのだろう。でもここで本当のことを言うのは無粋ってもんだよね。だからわたしは、抱きしめられた腕の中で、静かにヒロトのぬくもりを体に染み込ませていた。



∴メリークリスマス!



「どう? 変かなあ」

 そう言ったヒロトにわたしは思わず目を疑った。ヒロトはなんでもできるスーパー人間だとは思っていたけど、そんなところまでこなさなくていい。そう思うほどに、ヒロトはその帽子を被りこなしていた。すこし悔しい。

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