稲妻 | ナノ




「あっ……つぅー…」

 一体なんなんだこの暑さは。去年の今頃は昼間はともかく朝や夜はまだ涼しかったはず。しかし今年といえば、朝は暑い、昼間は勿論、夜もあつい。涼しい時間など、雨が降っている間だけだ。否、太陽が隠れていてもじめじめとした湿気の所為で余計に汗をかく。

 暑さにはやられたけど、夏バテをしないようクーラーだけは我慢している。一回だけ誘惑に負けて使ったことはあるが、それ以外は使っていない。

 しかし、なんだ。

「ヒロトー、暑い」
「うん、俺も」

 嘘だろ、なに涼しげな顔して「俺も」だ。

「ヒロト狡いよ、なんでそんなに涼しそうなの」
「え、いや、暑いよ。暑いから抱き着くのやめよう?」

 現在の俺達は、ソファーに座って本を読むヒロト、そして俺はそのヒロトに後ろから抱き着いている、という状況。
 確かにヒロトのうなじあたりは汗をかいていて少しだけ赤く細い髪の毛が張り付いたりしている。

 ……まあ、俺ほどではないかな。俺はといえば額からだらだらと汗は流れるし、じっとりと体にTシャツはくっつくし、その汗の所為で水分は飛んでいくしでもう最悪。ほんと最悪。大好きな食べることにたいしてもなんだか億劫だし。あーあ。さいあく。

 そのままの体勢で暫く時間が過ぎる。ぺら、とページをめくる音と、涼しげな風鈴の音だけが聞こえた。

「……緑川」
「んー?」
「ごはん、食べようか。何か作るよ」
「んー」

 じゃあちょっと離して、と首に絡まされた腕をほどくと、立ち上がりキッチンへと向かった。

 お昼ごはんなら軽く素麺がいいなあ。いや、食べる量自体は軽くなんてないけど。ソファーに寝転がりながらそんな事を考えていると、キッチンから声が聞こえた。

「ねえ、素麺でいいよね?」

 さすがヒロト、よくわかってるね。

― ― ―


 お昼ごはん(ちなみに4人前)を食べ終わり、だらだらしているとヒロトがどこかから扇風機を出してきてくれた。中々年期が入っていて、少し埃を被っている。スイッチを押してみると、ガコガコと大きな音は出るもののなんとか頑張って羽は回っている。少しでも気を紛らわせる事が出来るならなんでもいい。

「……緑川」
「………ゴメン」
「暑い、ね」
「うん」

 いつの間にか俺は扇風機の目の前を陣取っていたらしい。いくら我慢強い俺だって、涼しい場所があればそこに行っちゃうよ。

「おいで、緑川」

 ぽん、とソファーの開いたスペースを叩いて俺を呼んだ。にこりと笑っている。……なんだよ、俺ペットじゃないし。

「はは、いい子いい子」
「っ……、殴るよ」

 仕方なく、あくまで仕方なく示された場所座れば優しく頭を撫でられた。ああ、甘いな。結局ペット扱いなのか、ヒロトの馬鹿。円堂厨!

「あついよ」
「はは、俺も」

 ぎゅ、と握られた手は見ないこととする。

「でも俺、今なら溶けてもいいかも」
「……ばか、ヒロト」

 あはは、とさっきより大きく笑ったヒロトはやっぱり手を離さなかった。

 このまま一緒に夏の暑さに溶けてしまったら、それはそれで幸せなんじゃないのかなあなんて。

 思ってない、だんじて思ってないからな。



…………………………
紳士ヒロト×ツンデレ緑川が好きです。でもちょっと(ヒロトが)変態。そんな基緑。ヒロトは私のなかで変態要員でありイケメン要員でもある。やっぱりヒロトと緑川が一番すき、かなあ。この二人はいちゃいちゃしすぎて溶ければいいよ!

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