稲妻 | ナノ




「あ、居た居た。豪炎寺!」

 ぴょこぴょことまるで子犬のように駆け寄ってくる円堂が可愛くて可愛くて、仕方がない。

「いつも買ってるサッカー雑誌がさ、今日発売日なんだ。買いに行くのついて来てくんね?」
「ああ、わかった。じゃあ放課後、いつもの所に集合だ」
「さんきゅ! いつも付き合わせて悪いな」
「……いや、構わない」
「へへっ、そっか!」

 円堂はにか、と笑ってチャイムの音と同時に教室へと駆けていった。俺はその様子を見送ってから席へとつく。

 ポーカーフェイスを気取ってみるが、心のなかは嬉しさで爆発しそうだった。円堂と、久しぶりのデートだ。ふたつ隣の席で今度パフェ食べたいなあ、なんて甘ったるい話をしている奴らに比べれば俺達のこれはデートなんて洒落たものではないかもしれないけれど、やっぱり俺にとっては立派なデートだ。にやけそうになる口許を抑えつつ腕を組む。

 放課後だ。今日は確か部活もなかったはず。忘れないようにしないと、な。

―  ―  ―


 いつもどおり、円堂より少し早めに集合場所へ行く。どきどきと煩い心臓に鎮まれ、と唱えて短く息を吐いた。まだまだ、慣れるには時間がかかりそうだ。

 とん、と背中の壁に寄り掛かって円堂を待つ。

「……んじ。豪炎寺ーっ!」

 俺の名前を大きな声で呼びながらばたばたと向かって来る。この光景は毎回恒例のものである。円堂が「ごめん、待ったか」と、上がった息を一生懸命整えながら汗を拭うのも、俺が「待ってない」と返すのも恒例。

 そっか、と安心したようにニコリと笑った円堂が「じゃあ行こうぜ」と歩きだす。

「………っ!」
「? 豪炎寺?」

 ああ、もう、こいつは何故こういう事をなんの躊躇いもなくこなしてしまうのだろうか!

 目線を下に移せば円堂の右手にはしっかりと、俺の左手が握られていた。ご丁寧に指まで絡められていて。というか、円堂は人前だというのに恥ずかしくはないのだろうか。

「恥ずかしく、ない、のか」
「え、何でだ?」

 円堂がきょとんとした顔で返事をする。

「そんなんさ、恥ずかしかったら豪炎寺とは友達のままだったって。恥ずかしいと思わねえもん、好きなんだから仕方ないだろ?」

 ああ、ああ、ああ。こいつは天然タラシなのか。こんな恥ずかしいセリフを頬ひとつ赤らめずに言えてしまうなんて。もしかして、円堂の行動、言動のひとつひとつに一喜一憂してしまう俺のほうが可笑しいのか? そんなことは、ない、はず。円堂の器のでかさとかはよくわからないけれど、きっと大介さん譲りなんだろうな、とか考えていたら。

「豪炎寺、着いたぞ?」
「……ああ」

―  ―  ―


「お、あったあった」

 雑誌を見つけてるんるんの円堂に「よかったな」なんてありきたりな言葉を呟く。もう少し気の利いた事は言えないのだろうか、俺。

 漫画のほう見ていい? と、俺の意見を聞かずして漫画のコーナーへと歩く円堂を後ろからゆっくりとついていく。円堂と歩くと漫画コーナーへと行く道も長い。ふらふらと色んなところへと気が散る様子を見るのも楽しいといえば楽しいのだが。

「あっ、豪炎寺。見てこれ、こんなん見つけた!」
「あ………あ? っ!?」

 円堂が手に持っているのは結婚雑誌。コマーシャルでもよく見るような有名な雑誌だった。

「俺もいつか結婚とかすんのかなあ」

 何気なくぱらぱらとページをめくりながら、円堂がぽそりと呟いた。

「………ああ、そうだな」
「豪炎寺、今何考えた?」
「……や、べつに」
「俺が女の人と結婚すんの、想像しただろ」

 じっと、見つめてくる円堂の目はいつにもまして真っ直ぐで、下手に嘘はつけないな、と思った。

「……まあ、な。俺達もいつかは結婚するだろ。男同士じゃどうしても」
「ん…む。そうだけどさ」

「中学生の間くらいは、せめて今この瞬間くらいは、俺のこと以外考えないで欲しいよ。折角のデート、なんだし」

 ………あ。
 珍しく円堂が照れてる。永久保存版だな、じゃなくて。

 そうか、ちゃんと円堂も意識してくれてたんだなあと思うと嬉しくなった。

―  ―  ―


 手際よく会計を済ませ、俺達は店外へと出た。今からどうしようかと考えていると円堂がぐい、と俺の手を引っ張る。

「えんどっ……」
「俺んち来いよ! 母ちゃんに言えば晩飯も食べて帰れるし!」
「でも、悪いだろ」
「いいっていいって! 気にすんなよな」

 じゃあ、と、円堂の言葉に甘えさせてもらうことにした。

「俺以外のこと、考えられないようにしてやる」
「!? なっ………えん」
「嘘だって。…ほら、走るぞ!」

 円堂は、いつだって男前すぎてたまに不安になるときがある。でもそんな時は全部円堂がその不安を掬い上げてくれるんだ。…俺は、なにか円堂のためになっているだろうか。いつかそれがわかる日がくればいい、なんて考えているうちはまだまだ子供なのだろう。しかし今は、子供でいい、子供がいいと思っている。円堂と一緒に過ごしていられるうちは。

 きっと長い長い時間なのだろうけど、円堂がいればその時間さえも半分になってしまうだろう。俺はその短い時間を大切に過ごしていきたい。円堂と、一緒に。



…………………………
想像以上に豪炎寺が女々しいです。豪炎寺ごめんね。男前なキャプテンとそんなキャプテンの言動ひとつひとつに一喜一憂する豪炎寺が書きたかったんです。展開が速いのは影山の所為。そらいろちゃんに捧げます!

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