稲妻 | ナノ
隣にある控えめな温もり、微かに触れ合う生の柔肌、ふわふわなベッドの心地、そして急速に冷えてゆく思考。
そこで俺は初めて、自分がとんでもないことをしでかしてしまった、ということを悟った。
むくりと起き上がり、俺の隣ですうすうと静かな寝息を立てながら眠る男を見遣る。彼は、母親の腕に抱かれて眠る赤子のように安らかな、美しい油断を見せている。白く青く透き通る肌に点々と浮かぶ赤色がなんとも妬ましい。こいつが、やたらと現実味を強調するのだ。
とりあえず、彼を、ヒロトを起こそうと布団からはみ出ている肩をぺちぺちと叩いた。
「ん…おはよう風丸くん。どうしたの」
寝起きのぼんやりとした声が緩やかに響く。開ききらない目を開けようと細い指先で目を擦った。彼はきょろきょろと辺りを見回し、俺を見て、自分を見て、散らかった洋服を見て
「……ああ」
と一言呟いた。聡い彼は一瞬に全てを理解したようだった。微かに口元が笑っている。
「風丸くん、」
「……なんだ?」
「なに、したんだろうねぇ」
はらはらと、笑った。
きっと彼はなにしてたんだろうね、と言いたかったのだろうと思う。ただ彼も信じたくないのか、恥ずかしいのか、「なにをしたのか」と言った。俺もそう思う。なにしたんだろうな。
「ところで風丸くん」
「なんだ」
「ここは一体どこなのか、君はわかるかい?」
「……わからないな」
「そうだね、俺もだよ」