稲妻 | ナノ




「もう卒業なのか…」
「実感ないなぁ」
「…ああ」

 はたして時間の流れをこれほどまでに恨んだことはあっただろうか。教室の窓から身を乗り出して中庭の、すでに散りかけの桜を眺める円堂を横目に、俺はふとそんなことを考える。円堂がしょんぼりと沈んでいるのを見るのには、いまだに慣れない。

 中学校三年間の時が、もうすぐ終わりを告げようとしている。心の底に寂しさ、愛おしさ、悔しさ嬉しさ悲しさ、そんなものが入り混じった複雑な気持ちがふくりと湧いた。

「おれたち、中学生の間サッカーしかやってなかったよなあ」

 円堂が苦笑いで呟いた。
 俺も静かに苦笑いで返した。

 こうして中学校に居た期間なんて、ほんの少しのものだった。二年生の間はフットボールフロンティアやエイリア学園の色々があって、ほとんどサッカー漬けの毎日だったから学校での思い出よりサッカー関連の思い出のほうが多い。それからなんて、海外でサッカーをしていたから学校での思い出は無いに等しい。俺が陸上部のままだったらきっとこうやって考えたこともなかったのだろう。そういえば宮坂たちはどうしているのだろうか。

 そこまで考えて当番日誌を書く手を一旦止め、ぐう、と伸びをした。それから深く息を吸ってゆっくりと吐き出す。ゆったりとした時間の流れを噛み締めた。

「なあ、おれたち。後輩が居た期間とか、学校に居た時間とか人より絶対短いじゃん」
「ああ。そうだな」
「だからさ、今から学校中回ってやろうぜ。それから後輩たちにも会いに行ってさ。な? いいだろ風丸」

 俺、まだ事務室って行ったことないんだ。そう言いながら円堂は俺の前に立った。

「風丸と行きたい。行こうぜ!」

 円堂お得意の太陽のような笑顔で手を差し出される。そうされてしまえば俺にはもうその手を取るしか選択肢は残されていなくて、

「俺もだ。お前と回りたい」

 日誌をぱさんと閉めてその手を取った。卒業まであと二週間。



∴俺たちは最後に足掻きまくるしかないから



 とりあえず宮坂のとこだな、風丸取っちゃったし謝らなきゃ。そう笑った円堂を見ながら俺は、もう少し学校での円堂を見たかったと深心にぷくりと沈んだ。

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