稲妻 | ナノ




※捏造バンザイ




 実は最初から全て知っていた。
 なんて。

 許されるだろうか。



∴メームの爪痕



 俺が全てを知ったのは、調度レーゼが雷門に負けた頃だった。父さんがだれかと話していたのを偶然聞いたのだ。偶然。本当に偶然だった。

 吉良邸をふらふらと歩き回っていたときに、不意にふすまの奥から聞こえた父さんの声に耳を傾けた。ほんの好奇心。声の低い、男の人と話しているようだった。

『星の使徒計画』

 そう名付けられた、お世話にも良いとは言えない計画だった。父さんはサッカーで世界を征服しようとしていたのだ。

 俺達は利用されている、裏切られた。頭の中が、きれいに真っ白になり、足がすくみ、俺は動けなくなった。軽いパニック状態に陥り、その場に膝を折り、頭をぐしゃぐしゃと掻きむしる。それでも聞こえてくる父さんの声と、もう一人の男の人の声が頭のなかをグルグルと廻り、少しずつ侵食してゆくのがわかった。声を出したかった、声は出せなかった。あまりのショックから…なのか、喉の奥がきゅう、と細く締まってしまっていたのだ。冷や汗が額にぷくりぷくりと浮かび、塊となってぱたりと膝の上に落ちた。ぱたり、ぱたり、ぼたり。脱水症状でも起こしてしまいそうだ、と思った。きっとそんなことはないのだろうけど、口の中はからからに渇ききっていた。冷たい水が飲みたい。

「……それでは」

 はっと気がつけば、話は一段落ついたようで、中の男がふすまの奥から出てこようとしているところだった。

 隠れなきゃ。

 咄嗟の判断だった。重い体を無理矢理に引きずって、やっとの思いで廊下を曲がって身を隠すことに成功した。そこまで行くと、もう俺は動く気力も無くなってしまい、そのまま壁に背中を預け、うとうとと船を漕ぎ初めてしまいそうになった。

 最後の力を振り絞って、逢瀬を哀願する瞼を無理矢理こじ開けて、こちらを背中に歩き去る男を見た。


 不健康そうな人だ。


 頬はこけ、目つきが悪く、少なくとも初めて見る人にはとても良い印象を与えることはないだろう。そんな第一印象だった。名前はさっき聞こえた。ケンザキ、というらしい。最後ケンザキさんがこちらをちらりと見た気がしたが、俺にはそこまで気にする余裕は無かった。とにかく、とにかく、焦っていた。

 それからなんとか、それこそ最後の力を振り絞って部屋に帰ると、俺はばふりとベッドに倒れ込んだ。ギシリとスプリングのきしむ音が耳に響く。水が飲みたい。そう思ったが、身体はどんどんと重みを増し、動くのが億劫になってしまった。ずっしりとした岩が背中の上に乗っているような感覚だ。

 誰かに吐き出してしまいたい。
 誰でもいいのだ。俺一人が背負うにはどうも重過ぎる気がしてならない。

 でも、誰に?

 ネッパー、あいつはダメだ。優しすぎて、俺以上に考えこんでいずれショートしてしまう。ヒート、あいつにこれ以上負担をかけさせたくない。身体だってまだまだ完全じゃないはず。あいつは、あいつは。考えるうちに候補は少なくなっていって、遂には一人になった。性格も思いもなにもかも違えど、一番頼れると思った。けれど、あいつは、…―。

 0。
 0になった。

 俺は背負う事に決めたのだ。誰にも頼ることができなかった。俺が強いから背負う事を決めたのではない、弱いからこそ、背負う事しかできなかったのだ。

 そして決めた。他の誰にも、このことは知らせないようにしなければと。俺以外に傷つくやつが出てはいけない。

 割り切ろう。なにもかもを知ってしまったのだ、もうきっと忘れることはできないのだ。0になれ、無になれ、真っ白に……真っ黒になってしまえ、『晴矢』。いや、




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