稲妻 | ナノ




 土方さんの筋肉は、ただがむしゃらについたものではなくて、きちんと綺麗に、計算されてついているものなんだとしみじみ思った。

 皆が寝静まって、すっかりしんとしてしまった宿舎の一室で、俺達は一言も言葉を発することなく向き合っていた。土方さんは男らしく胡座をかいて、俺は正座でうつむいて、膝に落ちる水玉が弾けるのをただ見ていた。

 俺は泣いていた。
 つい3日前のこと。韓国戦で負った怪我を治した吹雪さんがイナズマジャパンに復帰することになった。皆、吹雪さんが復帰することを嬉しく思って歓迎した。俺もやっと怪我を治した吹雪さんを歓迎したし、久しぶりに会えて凄く嬉しかった。けれど、吹雪さんが復帰するのに、一人チームから抜ける必要があった。その一人に、俺が選ばれたのだ。

 久藤監督に言われて、なんとなく納得がいかなかったあのときは、染岡さんが厳しいことを言ってくれたおかげでその場で不満を吐き出さずに済んだ。納得することもできた。しかし、今日――俺がライオコット島を出る前日――になって、俺は腹をくくりきれなかったのだ。

 そりゃあ吹雪さんだって、復帰したくて、サッカーがしたくてしかたがなくて、死ぬ気でリハビリに取り組んだに違いない。でも、俺だって死ぬ気で頑張ってきた。今まで努力を惜しんだことだたない。努力の量だけなら、誰に勝てなくても、どんな人とも互角に勝負できる自信があった。これからまだまだ強くなりたいという、意欲もあった。

「悔し、いで…ヤンスッ…」
「……だろうな」

 土方さんは静かにうなずいてくれた。「お前の努力はいつも見えてたよ」それからゆっくりと足を組み直した。ぎしりとベッドが揺れたのに合わせて、俺の体も小さく揺れる。

「お前の努力はずっと見えてたよ。毎日ランニングしてたよな。ドリブルの練習もすごく丁寧にやってた。強くなりてえって気持ちが素直に行動に現れてる。すごいよ、お前は。でもな、気持ちだけじゃ駄目なんだ。なんつうかよぉ、こう言っちゃキツイかもしんねえけど、やっぱり上手い下手の差って出るもんなんだよなぁ。俺が言えた立場じゃねえけど、やっぱりお前と吹雪の差は、あるんだ」

 土方さんの言葉はいつも正論で、だからこそストレートに心に突き刺さって、厳しくて、つらい。ぽろぽろとさっきより大きな粒になって涙が落ちてきた。涙は膝の上で美しいミルククラウンを作ってから、滑り落ちてシーツに染みていった。

「土方さん、俺っ…悔しい、でヤンス…!」
「わかってるよ」

 土方さんが膝立ちになって、太い腕で俺の肩を優しく抱いた。瞬間戸惑ったが、なんだか弾けなかった。

「日本に帰ったら今まで以上に頑張りゃいいんだよ。二流三流のやつならここで、これ以上どう頑張ればいいんだ、とか言ってくるけどさ。栗松、お前にならできるだろ?」

 土方さんは決して一流だとは言わなかったけれど、なんだか、そう言われているように思えた。ただの俺の思い過ごしだろうか。

「が、頑張るでヤンス…!」
「ああ、待ってるからよ。大丈夫だ、頑張れ」

 土方さんの筋肉の心地好い硬さと、南国の暖かい太陽のにおいに身を寄せて、俺はふわふわ揺れていた。土方さんの好意に甘えて、俺は一晩中、ないた。



∴おれのヒーロー


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